100位の意味を知るとほとんど絶望的になってしまう
テニス界では「世界ランキングで100位になれば食べていける」と言われている。
この数字を聞いて、あなたはどう思ったでしょうか?
100位=100人は、単純に言えば、グランドスラム大会に予選なしに出場できる選手数だ。
この4大会は本線に出場することができれば、すべて1回戦負けだったとしても約1600万円の賞金をゲットできるということ。これならテニスで食っていける。
そのために、どうあっても世界100位のポジションが是が非でも必要になります。
100位にたどり着くまでの道のりは正真正銘のイバラの道。
試合に出て「ポイントを獲得してなんぼ」の世界がプロテニス界です。
レベルの高い大会になればなるほど、そこでの成績は高ポイントに直結します。
けれども高レベルの大会には簡単には出場できるわけがありません。
ましてや、なかなか勝てません。
ランキング100位になるためには最低でも500ポイントが必要なのです。
世界への登竜門といわれているフューチャーズ大会(最も下位の大会)に優勝したとしても、獲得ポイントは15ポイント。1回戦負けだと0ポイント、1回戦に勝っただけなら1ポイントのみ。
500ポイントがいかに現実離れしているか想像できるでしょう。
というか、想像を絶する世界
本書は、関口周一プロのジュニア時代から、プロ生活を通じたエピソードを中心に、プロテニスの過酷な現実をクールに描ききったノンフィクションです。
プロテニスの世界がここまで厳しいということを本書を読むまで知りませんでした。
プロスポーツの世界はいずこも生半可ではないと思うのですが、テニスはとりわけ凄まじいものがあります。
著者は、テニスの世界の能力の強さ・大きさを次のような秀逸な例えで説明されています。
サメ(100位以内)
カツオ(101から250位)
サバ(251から500位)
イワシ(501位以下)
ちなみに関口プロの最高ランキングは259位です。
なによりも親が大変なのです
才能ある子供が活躍の舞台を広げれば広げるほど、親の負担は加速します。
どんなスポーツでも全国区になれば親の負担は大きくなる。「強くなる」=「大変」というのはこういうことなのだ。
サラリーマン家庭である関口家の家計はとっくの昔に限界を超えていたそうです。
度重なる遠征時の応援と費用。
関口はコートで戦っていた。それと同じように両親はコートの外で戦っていたのだ。
試練またまた試練
ジュニア時代の栄光から、プロになってツアーを戦う悪戦苦闘まで。
関口プロの「苦難の道」は本書に譲ります。
ぜひ手にとって、本文をお読みください。
そのなかで、関口プロが後悔する場面があります。
とても印象的です
僕の選択は明らかに間違っていました。「ダメもと」でも上の大会にチャレンジするのが、プロのテニス選手のあるべき姿です。
上へ上へという気持ちを持ち続けることの困難と重要性が凡人であるわたしには殊のほか沁みました。
メンタルの重要性
そして、選手にとってもっとも怖いのは、「あいつは弱い」と思われることだ。そうした認識や評判はあっという間に広まってしまう。そうなると、それまでなら諦めていた場面で相手が諦めなくなる。まけていても「もう少し頑張ってみようか」となる。
勝負師がどのような試合であろうと、どのような相手であろうと全力で倒しにくことの真実がここで言われています。
人と人が戦うとはまさに全身全霊であらねばならないのです。
人間同士の戦いはどこまでも美しく、そして残酷です。
ガチでガチンコ
実力の世界と言ってしまえばそれまでだが、テニスには他競技に介在するある種の甘さが一切ない。
リセットなどありません。
過去と不連続の未来もありません。
すべてが地続きなのです。
「今年はダメだったけど、来年頑張ろう」は通用しない。
人生にそっくりだ。
そんな厳しい環境で戦っているのが、世界を目指した「テニスの子」たちなのだ。関口周一の挑戦はいまも続いている。