東大卒プロゲーマーが実践する新しい「努力」のやり方
本書は、「ストリートファイターV」世界大会でコンスタントに好成績を残すプロゲーマーのときど氏の著作です。
「ときど」という呼び名はゲームセンターで中学生の時に付けられたあだ名だそうです。シンプルな攻撃方法を勝ちパターンとし、その方法を繰り返し使って勝利を収めていたことから名付けられました。「飛んで、キックして、どうしたぁ!」の頭文字の組み合わせとなります。「どうしたぁ!」は技の掛け声です。
7歳から格闘ゲームを始め、東大大学院を中退の後、現在トッププロとして活躍する著者のゲーム人生は決して平坦な道のりではありませんでした。
プロになって4年目ぐらいの頃から、順調だったプロゲーマー生活は大きな壁にぶつかります。
まったくと言っていいほどに勝てなくなるのです。
彼はそこで、努力について考え、努力の方向を一変します。
以下、内容に言及しますので、あらかじめご了承ください。
通用しなくなった勝つ仕組み
当時のときどさんの必勝法は次のようなものでした。
- 人に先んじてゲームの要点を捉え、それに合った「簡単で強い行動」を型通りに繰り返す
- 常にゲームの「最新情報」を手に入れ、独占する
- リスクを排除することで、「負けない戦い方」に徹する
合理性の高い思考が徹底されています。
おそらく、受験勉強のプロセスから導き出された方法論のように思えますし、ビジネスシーンにおいてもオーソドックスな手法であると言えるでしょう。
しかしながら、
対戦相手やファンの間では評判はよろしくありません。
ときどのプレイは合理的なだけ。薄っぺら、つまらない
結果が伴っている間は、聞く耳を持つ必要はなかったはずです。
彼が勝てたポイントは、誰よりも早く正解を見つけたことにありました。
- 「このゲームは何をするのが正解?」
- 「セオリーは?」
- 「強いキャラクターは?」
ゲームの新作をメーカーからの試験問題ととらえ、あくまで合理的なアプローチをとります。
しかしながら、
合理的な勝利の方程式は、合理的な対処法を発見され易いものです。
インターネット環境とプレイヤーの増加で、最新の攻略情報は万人に解放されることを避けられません。
もし、新しい攻略を発見しても、すぐに共有されてしまうのです。
加えて、新作のリリース間隔が短かったことも、著者にはフォローの風が吹いていたと言えるでしょう。
理解度、攻略度、駆け引きのノウハウなどを極めるまでの時間が比較的短いために、ゲームの本当に深い部分に切り込む前に、新作が出ることによって、勝負がある意味「リセット」されていたのです。
僕の勝つための仕組みは環境の変化によって、完全に陳腐化していました。
合理性を極めれば極めるほど、その方法論は陳腐化の速度を早めてしまう賞味期限の短い戦法と成り果ててしまうのです。
新しいときど式を模索する
勝てない日々の中で、著者は気付きます。
これまでの僕は「勝ちにこだわりすぎていた」ということです。
負けたらつまらない、勝てば楽しいという理由から、勝つための手段に一切こだわってこなかったのです。
キャラクター選択や戦法についても、今勝てる、正解に最短でたどり着くことを最優先します。
容易に想像できますが、受験勉強へのアプローチとまったく同じ方法が採用されています。
勝つことを至上命題とし、勝ちに関係ない一切のアクションには見向きもせず、自分らしいプレイにもまったく興味を示しません。
行き着いた先が、陳腐化でした。
「ときど式」は理屈と手順を理解して、操作に習熟すれば誰でもコピーできるものになっていました。
手の内が分かっているのですから、勝てる道理がありません。
合理的でないと切り捨てていたアクションを見直すことから、彼は始めます。
自分がどれだけプレイの幅を狭めていたかがわかってきました。
勝率が下がったとはいえ、そこそこ勝てている方程式を捨て去ることには大変な勇気がいるはずです。
彼は踏ん切りをつけ、一歩前に出ます。
これまでのやり方を捨てる。そして、ゼロから「ときどらしいプレイ」に向けて努力する。
「努力」という言葉を偏見なしに見る
努力という言葉は容易に「大変なこと」をイメージさせてしまいます。
昔からある努力のイメージに縛られている人は多く、あなたも例外ではないでしょう。
- 勝ちにこだわる
- 一人でやる
- ただがむしゃらにやる
彼は、これらを「努力1.0」と名付けます。
それでは、勝てないのです。
シリアスに歯を食いしばる努力の方法は、僕らのような変化の激しい世界では、勝つことにつながらないからです。
「努力2.0」とは
次のように定義づけます。
- 反復の法則
- 環境の法則
- メンタルの法則
- 継続の法則
- Whyの法則
- 地力の法則
反復の法則
勝ちにこだわるのではなく、負けの中に答えがある。
環境の法則
一人でやるのではなく、ライバルは敵ではない。
メンタルの法則
情熱だけで乗り切るのではなく、心に負荷をかけない
継続の法則
己に打ち勝って続けるのではなく、頑張りはいらない
Whyの法則
レールにそって生きるのではなく、嫌なことはやらない
地力の法則
人と比較するのではなく、自分史上最強になる
「自分だけの答え」を探し続けること、つまり努力の過程そのものが、勝ちにつながる。
合理性の追求の放棄は、非合理の海に飛び込むことを直ちに意味しません。
「最短距離は必ずしも勝利への近道ではないこと」をあらためて思い出させてくれる本書は、変化のスピードが激しい現代において、きっと多くのヒントをあなたに与えてくれるはずです。