違和感を追え⇒
著者は本書の目的を次のように言います。
デジタルがもたらす恩恵の背後にある違和感の正体を追い、人間とデジタルとの向き合い方を模索する。
著者は自分自身に問います。
人間はもちろん人間のためにデジタルを駆使し、進化させようとしているはずだ。・・・・にもかかわらず存在する違和感。その違和感の正体を突き止め、真摯に対峙しなければ、訪れる未来は必ずしも明るいものにならないだろう。このような予感が、本書を執筆する原動力になっている。
楽観論にも悲観論にも傾かず、リアルな眼差しだけがある。
おすすめ度:
デジタルにより明るい未来が創造できると信じているからだ。その一方で、僕は不思議な違和感を覚えるようになっている。はじめは小さかったこの違和感は、デジタルが世を覆い尽くすにつれ大きくなっている。
この「違和感」は信用しても良さそうだ。
本書の目次
- はじめに
- デジタルの船からは、もはや降りられない
- デジタル社会の光と影
- モノのネット化で変わる生活
- ロボットに仕事を奪われる日
- 仮想と現実の境界線が溶ける
- 脳と肉体にデジタルが融合する未来
- 「考える葦」であり続ける
- デジタルは人間を奪うのか
- おわりに
デジタル化の功罪
世界の人口の半分以上の人々が何らかの認知、感情、感覚、運動の機能障害に苦しんでいるのだという。
テクノロジーの恩恵により苦痛から解放される人々が増えることは素晴らしいことである。
その一方で、幾何級数的に我々の生活に浸透するデジタルの波は生活の高度な利便性の実現と同時に将来的な不安を増殖させてもいる。
コンピューターと脳がつながり、そこに強烈な悪意が向いた場合、脳が新たな戦場になるという指摘すらある。
アニメや小説で馴染みのある電脳世界はあなたの足元をすでに濡らしているのだ。
ほら、遠い未来が指の先にある。
止まらない心臓
2014年、イリノイ大学の物質科学者であるジョン・ロジャース氏とワシントン大学の共同研究により永遠かつ正確に動き続ける心臓ペースメーカーが開発された。

まだうさぎの心臓での成果であるが、人間の心臓発作や不整脈の治療へ応用することを目指し研究が進んでいる。
永遠に止まらない心臓をあなたの子供や孫が、うまくいけばあなた自身が手に入れることのできる時代が現代なのだ。

絶対の意味の変容
この世に絶対はない。
正確に言い直そう。
この世の中には「絶対」は絶対にない。
が、この言い方も間違っている。
この世の中には絶対はひとつしかない。
それは人間は必ず死ぬということだ。
有史以来、ただの一人も例外はない。
が、この「絶対」もテクノロジーの発展により覆されるかもしれない。
「永遠に止まらない心臓」を手に入れることができれば話は違ってくる。
人間の死はなにも心臓停止だけではもちろんない。
しかしながら、止まらない心臓が実現できるのであるならば、その他の臓器も同様に可能であろう。
そのような世界はあなたやわたしの想像を超えている。
人間にとって重要な「境界線」が溶けてしまうからだ。
融解した後にもう一度はじめから作り直さなければならないだろう。
人間とは何か?
生命とは何か?
個人とは何か?
生きるとは、死ぬとは何か?
多くの優秀な才能はSFというメディアを通してこのことを問い続けている。
ゆえに、私のような凡人ができることはできる限りそのような「作品」に触れ、何かを感じたり想像することだ。
生き延びたければ「違和感」を追い続けるしかない。