昭和の日本文学から大きな影響を受けていた村上春樹という作家の別の顔
村上春樹氏の「若い読者のための短編小説案内」を読み終えたところです。
タイトルから中身をよく読まずに、長い間、単なる短編の案内だと偏見を強くして、読まずにいました。
後悔
もちろん、案内はしていますが、著者の小説に対する意見もたくさん聞けて、大変に面白かったです。
偏見は持つものではないと大いに反省した次第。
第三の新人とその近辺
アメリカの大学で講義の必要から、まとまって日本の作家を読む機会を得たとありましたが、本当のところはよくわかりません。
わたしは、以前より村上氏は日本の小説をよく読み込んでいると漠然と思っていたので、ああなるほどねという感じでした。
第三の新人に特に惹かれるというあたりは、そうなんだろうなという気がし、合点がいきます
取り上げている作家は以下の六名です。
- 吉行淳之介
- 小島信夫
- 安岡章太郎
- 庄野潤三
- 丸谷才一
- 長谷川四郎
どちら様も一筋縄ではいかない人たちばかり。
今回はとりあげられてはいませんでしたが、遠藤周作や吉田健一もお好きなようです。
私が中高生の頃には、彼らは文庫で普通に書店に並べられていた現役作家たちでした。
今ではすっかりそのラインナップも様変わりのようですね。
近頃の若い方でこれらの作品を読んでいるのなら、ただの物好きか文学の鬼となるのでしょうか。
この六人の中で、まともに読んできたのは、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三ぐらいです
彼らのクールさは一読に値します。
吉行淳之介や丸谷才一はあわなかったです
長谷川四郎に至っては読んだことがありません
遠藤周作や吉田健一は割りと好きでした。
ところで、古井由吉はどうなんだろうか。
非常に気になるところです。
作家的アプローチ
村上氏は極めて分析的にそれぞれの短編にアプローチします。
そういう意味では、ここで僕がやっているのは、いわば草野球的な小説の読み方です。青空の下で、野っぱらの真ん中で、簡単なローカル・ルールだけを作って、あとはとにかく好きに楽しくやろうじゃないかと。
徹頭徹尾、謙遜です。
おそろしいまでの切れ味もしくは、レントゲン撮影が行われていきます。
さすが一流の作家です。
僕はそのような自分の中にある「創作本能」をたよりにひとつひとつのテキストを読み解き、それを位置づけることとしました。
圧巻は、小島信夫と丸谷才一に振り下ろされた包丁さばきです。
そして、安岡章太郎に対しては、批評愛すら感じられます。
つまり安岡章太郎の作品には、小説的構造としては大いに私小説的であるものの、その小説的意識においては、ほとんど私小説的ではないと。
第三の新人たちに対するこのような喝破は、いまでは常識であるかどうか不案内なので知りえません。
しかしながら、彼らがデビューした当時、このような洞察は皆無であったはずです。
何食わぬ顔をして煮ても焼いても食えないその強かさは、「第三の新人」の専売特許でありました。
そのような強かさに作家の姿勢としてのシンパシーを村上氏は覚えるのでしょうか。
村上春樹という作家の奥深さが伺え知れる書籍です。
ぜひ、手にとって賞味してくみてださい。