ジョン・トラヴォルタの瞳に映る悲しみとタヒチの光

本作は、ジョン・トラヴォルタの演技を堪能するための92分と言っても過言ではないフィルムです。
「パルプ・フィクション」を機に、飛躍的に役の幅が広がりましたが、年を経るごとに、様々なトラヴォルタに出会えることはあなたにとっても何よりの喜びであるはずです。
以下、内容に言及しますので、あらかじめご了承ください。
ストーリー

癌に犯された息子のウィル(タイ・シェリダン)と残された時間を過ごすために、仮出所を金で買った贋作に天才的な才能を持つレイ・カッター(ジョン・トラヴォルタ)は、組織のボスからの借りを返すために、モネの名画「散歩、日傘をさす女」の贋作を引き受けざるを得なくなります。ボストン美術館に展示されている本物とすり替え、本物を差し出せと要求されます。期限は3週間。父親のジョセフ・カッター(クリストファー・プラマー)や仲間の協力を得ながら、困難極まりないミッションを開始します。
ストーリーの背骨はもちろん、偽作作りであり、美術館内でのすり替えミッションです。
けれども、主眼は親子の心の交流にあります。
3つの願い

余命少ない息子に対して、父親のレイは3つの願いを叶えてやると言い出します。
この唐突で不器用な提案により、勘のいい息子は自分がもう長くないことを確信します。
3つのうちの最後は、現在進めている父親の一連の計画の仲間に入れてくれというものでした。
当然のようにレイは彼の申し出を拒否しますが、父親や祖父のように「人生を生きたい」という彼の「叫び」を最終的には受け入れます。
この一連のシーンにおけるトラヴォルタの演技に注目してください。
演出の冴えもありますが、トラヴォルタの表情がどれほど雄弁であるかをあなたは思い知ることになるでしょう。
たったひとつの願い

鮮やかな逆転劇を収めたレイたち3人は、ほとぼりが冷めるまで、ボストンを離れ南の島(タヒチ)に身を隠します。
この地を選んだ理由は、画家を夢見たレイがゴーギャンに倣ったからでしょう。
ハンモックに横たわる息子は虫の息で元気がありません。
その一方で、ジョセフは波打ち際をアルコール片手に上機嫌です。

ウィルは父親のレイに尋ねます。
ひとつだけ願いが叶うなら何を願うかと
答えを二人ともわかっています。
レイは何も言えません。
レイは何も言いません。
ウィルは弱々しい瞳で黙って父親を見つめるばかり。
トラヴォルタの表情が圧巻の一言です。
こんなに上手い役者だったんだとあなたは頭を殴られるでしょう。
とてもとても美しい時間が流れます。
できれば、カット割の素晴らしさも同時に堪能してください。
ラストシーンを見るだけでも価値のある映画がまたひとつ誕生しました。

