究極の普通を目指して
食のネット通販企業オイシックスへの長期取材を核として本書は構成されています。
本書のキーコンセプトのように、内容は「横へ、横へ」と広がっていくのです。
いろんなものがいっぱい詰まっている滋養豊かな書物です。

まずはご賞味あれ
発端は食
「フルーツになりたかった野菜たち」を販売するオイシックスの社長は著者のインタビューに次のように答えます。
・・・スーパーで買う食材は食べるための「部品」みたいなものだったけれど、部品じゃなくて、生きるためのものに変わったんじゃないでしょうか・・・
ここには「思想」が明確に語られています。
著者は多くの人々の意識の変化を感じ取り、生活全般にあてはまる「変化」を分析し、流れの先に何が見えるのかを解き明かそうとするのです。
これこそが、本書の目的であるようです。
気持ちいい暮らしに憧れるということ
「粗食のすすめ」の著者である幕内氏は家庭料理のカウンセリングも行っていますが、著者は幕内氏からの次の言葉を印象深く記憶しています。
カタカナでなはくひらがなのものを食べてください。パスタじゃなくてうどん。パンではなくてご飯。サンドイッチじゃなくおにぎり。
ここでも、思想が明瞭に示されています。
健全な肉体は健全な料理を欲するのです。
ともに物語をつむぎ、ゆるゆる生きる
オイシックスのバイヤーは言います。
大切なのは価格破壊ではなく、規格破壊なんです
きれいな形でないとダメだとか、規格から外れたものは見向きもされないとか、そのような昭和に固有の神話が現在、静かに解体されようとしています。
今まさに、食に対する思想が再構築されようとしているのです。
開かれたネットワークと「街で暮らす」
著者は現在3つの場所を拠点とし、生活をしています。
そのような移動生活を通じて次の三点を会得したそうです。
- 移動の自由が楽しめるようになった
- 所有するものが激減した
- 人間関係のネットワークが多層化した
自由度が増した現在の暮らしを著者は次のように言い切ります。
「どこにもつかまれない」じゃなくて、「あらゆるところにつかまることができる」
著名なノマドワーカーは、生活のトラベラーへと生成します。
日常こそが非日常であり、それを日常感覚で生きる著者を素直に羨ましく思います。
すべては共同体へと向かう
オイシックスのメディア担当者は言います。
企業が価値を提供するのではなく、企業とお客さんが価値をともに創る時代になるということです
単なる食の提供ではなく、企業と顧客による食文化の形成。
生産や消費の場における、来るべき関係性が構築されようとしているのでしょう。
あらたな共同体の再興
著者は「孤独でない自由」を求めます。
「普通であることが他人とのあたらしいつながりを生み出していくのだ」と言います。
心地よい暮らしをひそやかに営むために、あらたな共同体を再興しようと控えめに口にします。
ゆるゆると、めんどうごとをとりのぞいて、最後に残る自分の好きなことに心を傾け、意識を集中する
孤独でない自由を謳歌するためには、なによりも「いま、この瞬間に全意識を傾ける」ことが不可欠であるはずです。
いまをもっともっと楽しみ、もっともっと善く生きよう。

