12月13日から公開されているミステリー映画「屍人荘の殺人」の原作は国内主要ミステリー賞4冠を達成したベストセラー小説です。
映画をみた人たちの評価は結構辛辣なものが多いです。

実際に本日観てきました。多くの人が酷評するほどでは全然ないと思います。以下に感想を書きます。
内容について言及してますので、まだ観ていない方は決して読まないでください。
本作の概要
大学のミステリー研究会に所属する葉村譲(神木隆之介)と自称探偵(ホームズ)を名乗るサークル長の明智恭介(中村倫也)は、同じ大学に通う美少女探偵の剣崎比留子(浜辺美波)の申し出を受け、ロックフェス研究会の合宿に参加することとなります。三人が向かった合宿先である山奥のペンション「紫湛荘(しじんそう)」で殺人事件が起こります。
映画の予告においても、ネタバレになるために、殺人事件に巻き込まれていくというシチュエーションしか情報提供がなされていません。
しかしながら、
本作にはゾンビが出てきます。
つまり、
ある種の「ゾンビ映画」となります。
ゆえに、タイトルにおいて「紫湛荘」は「屍人荘」と言い換えられています。
屍人とは「生ける屍」、すなわちゾンビに他なりません。
なぜ、ゾンビが出てくるのか?
その理由は、ある組織がバイオテロを行ったからです。
ロックフェスに参加している観客たちに細菌を注射し、発症させます。
最後までその組織の存在や目的が明らかにされていない演出は、観る者にとっては消化不良感を与えてしまうことは否めません。
話が違うと思ってしまう3大要因
本作に対して低い評価を下す人たちの主な理由は次の3つと言えるでしょう。
- ミステリー映画と思って足を運んだのにゾンビ映画であることの肩透かし感
- 主要人物のひとりである中村倫也が物語の開始早々で姿を消してしまう残念感
- ラストシーンの後味の悪さからくる不快感
ゾンビに対してアレルギーを示す観客も多いために、事前のインフォメーションがないことは少しばかりフェアではないと思われます。
探偵(ホームズ)の明智が早々に出番がなくなってしまうことは、中村倫也ファンにとっては我慢ならない脚本であり演出であるのでしょう。
ラストシーンは、ゾンビとなった明智が葉村を襲うところを剣崎が槍のひと突きで助けるのですが、そこにはカタルシスは微塵もありません。
槍で仕留める女たち
ゾンビの襲撃に耐えながら孤立するペンション内での3つの殺人事件を中心に物語が展開していきます。
そのうちの2つについては、怨恨であり、ミステリーの常道通り、意外な人物が犯人です。
2つの殺人事件の被害者もゾンビとなった後に殺されてしまいます。
ゾンビを仕留めるためには、頭に剣や槍を突き刺すことが効果的であるため、そのうちの一人は、槍でひと突き刺されて絶命します。
ここは葉村が襲われそうになった時に若い女性がひと突きする場面となります。
実は槍で突くという行為はもう一度繰り返されます。
剣崎比留子の手で。
剣崎の企み
剣崎は自らの生い立ちを問わず語りのうちに葉村に語ります。
自分は周りの人間を不幸にし、肉親や友人から忌み嫌われていたと。
そのような孤独感、孤立感を抱えながら生きてきた人間が、明智と葉村の関係を羨み、葉村に対して探偵である自分とそのような関係性を構築したい欲望を持ちます。
しかしながら、葉村はそれを拒否します。

荒唐無稽なストーリーに対して、荒唐無稽な解釈を今から言います。
バイオテロの首謀者のひとりがこの剣崎比留子であったとしたら。
明智と葉村の関係性を壊すために、彼女が二人をこの館に誘ったのだという仮定となります。
うまい具合に明智だけがゾンビになるわけがないじゃないかという批判は当然にあるでしょう。
そこは物語進行のご都合主義が勝ったとしてください。
それは棚上げにし、あなたに思い出して欲しいのです。
明智が葉村に言ったコメントを。
預言者明智
明智は逃走のさなか、葉村に次のように語ります。
犯人が分かった、と。
ある女の不自然な振る舞いから、彼女がこれから犯行に手を染めるであろうことを推測します。
バーベキューにおける軽薄な振る舞いからOBたちがターゲットであることも同時に頭に浮かんだのかもしれません。
おそらく、去年の合宿のときに起こった事件から想像し、彼女が復讐のためにこのサークルに近づいたことを見抜いたのでしょう。
明智が女とともに、屋敷に逃げ込もうとした時に、彼女を押し出し、女を助けようとしたのは騎士道精神からではありません。
彼はなぜ犯人であると目星をつけていた女を助けたのか。
それは、彼女に復讐をやり遂げさせたかったからに他なりません。
では、
自分の命に代えてまで、どうして彼女の命を優先させたのでしょうか。
なぜなら、
明智は自分が殺されることを知っていたからです。
誰に?
剣崎にです。
明智は葉村に、館に到着したその時に、剣崎のことを調べたとつい口が滑ってしまいます。
調査の中で、もしかすると、剣崎とテロ組織の関係を掴んでいたのかもしれません。
フェスにおけるバイオテロ自体は、来るべき大掛かりなテロを遂行するための「実験」だったのでしょう。
剣崎の背後関係を知った明智は逃げられないと思ったのかもしれません。
命を狙われる理由が自分から葉村を奪うことであるとは、さすがに想像できなかったと思われますが。
止めを刺す女
映画のラストにおいて、明智の登場は鮮烈でした。
当然にゾンビになっていると思われている人間が、高らかに右手を上げて、俺は大丈夫だと言わんばかりに背中で語っていたからです。
一瞬、無事だったのだと、観客の誰もが思ったはずです。
残念ながら、
葉村の願いも虚しく、明智はゾンビ化していました。
しかしながら、その登場のシーンから、もしかしたらまだ人間の部分が残っているのかもしれないと気付いたのが剣崎です。
明智は葉村に襲いかかり、何度もかぶりつこうと試みます。
一見すると、ゾンビが仲間を増やすための「お約束の行為」に見えます。
実は、明智が葉村の耳元で真実を囁こうとする行動であったと見なすのは、あまりに過剰な解釈でしょうか。
彼は「彼女に気をつけろ」と葉村に忠告しようと、最後の人間性を消さずに戦っていたのです。
けれども、
その明智の意図を正確に読み取っている剣崎は、バレないように明智に止めを刺します。
次回作が待ち遠しい
以上が、映画を観終えたばかりの感想となります。
酷評されるほどのレベルではもちろんありませんし、2時間の上映がしっかり楽しめた作品でした。
続編があるかどうかは知るよしもありませんが、次回があるのならば、ぜひ自分なりの答え合わせをしたいと思います。

