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「祝祭と予感」蜜蜂と遠雷の世界観がどんどん広がっていく

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蜜蜂と遠雷の小説世界にまた浸ることができる喜び!

祝祭と予感

10月4日より映画「蜜蜂と遠雷」が公開されますが、公開日を狙いすましたかのように今月2日に出版されたのが、「祝祭と予感」です。

累計約150万部の大ベストセラー「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ短編集となります。

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以下、内容に触れますので、未読の方はご承知おき下さい。

10月19日映画見てきました。素晴らしい!

本書の内容

全部で120ページ程度の短編集なので、小一時間もあればすぐに読めてしまうボリュームとなります。

計6編が収録されていますが、タイトルは以下の通りです。

  • 「祝祭と掃苔」
  • 「獅子と芍薬」
  • 「袈裟と鞦韆」
  • 「竪琴と葦笛」
  • 「鈴蘭と階段」
  • 「伝説と予感」

掃苔(そうたい)とは、墓参りのことです。 鞦韆はブランコと読みます。

「祝祭と掃苔」

亜夜とマサルが二人のピアノの恩師である綿貫先生の墓参りに行った日をスナップしたのが本作です。

なぜか塵も同行していたために、そこはかとなくコミカルな感じが全体に漂います。

例によって、不思議ムード満載の塵の行動は勝手気儘の自由度全開となります。

亜夜は、立ち止まって空を見上げている少年を振り返った。

じっと宙の一点を見つめている。

遥かな、高くて遠いところ。

「ーん、あ、なんでもない」

少しして、我に返ったように、少年は振り向いた。

「なあに?」

「なんでもない。空耳だよ」

塵に何が聞こえていたのかは、「蜜蜂と遠雷」を読み終えているあなたにはおわかりのはず。

それが、

蜜蜂の羽音であったのか、遠く遠く微かに鳴った遠雷であったのかは、あなたのご想像にお任せします。

「獅子と芍薬」

芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の出会いが描かれています。

恋に落ちて、結婚に至り、その後離婚をし、今は別々の人との間に子供がいる二人の若き日の偶然の出会いが切り取られています。

獅子とは、その髪型(髪の量?)から容易に連想できるナサニエルを指し、芍薬とは、元美少女の三枝子の容姿を例え、かつパーティーでの和服の柄を指しています。

生きていく。この世界で。

何かがすとんと腑に落ちる感触があった。

「袈裟と鞦韆」

作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけとなった不器用な教え子小山内健次との出会いと別れが主題となります。

でも、菱沼は彼の曲が好きだった。彼の書く譜面は美しく、しばしば目を留めさせるひらめきがあった。

何より、どの曲も「彼の音」がした。それは、作曲家にとって何よりも大事なことである。

自分よりも先に逝ってしまった教え子の意志を継ぐかのように、名曲が誕生するその誕生前夜がさりげない筆致で描かれています。

私はこの作品が一番気に入りました。

記譜のほうを音楽に寄せるんだ。音楽を譲るな。記譜のほうに譲らせるんだ。

「竪琴と葦笛」

マサルとジュリアード音楽院に留学したマサルの恩師ナサニエルとの交流が鮮やかに描かれています。

音楽を愛する思いが紙面にあふれていて、ジュリアード王子(マサル)のスケールの大きさが花ひらいていく過程が丹念に綴られているのです。

「君の音楽は、大きい。内包するものがとても大きい上に、思いがけないほどの複雑さと多面性がある」

「鈴蘭と階段」

伴侶となる楽器選びに悩み続けるヴィオラ奏者である奏の楽器との運命的な出会いを描いた作品です。

他でもない自分の楽器であるという楽器に出会うことで演奏家は一流への階段を登るのでしょうか。

パヴェル氏が「君の楽器だね」と呟き、先生が「驚いた」と呟いた。

天才ではない奏に焦点をあてた長編を乞い願っているのは私ばかりではないはずです。

「伝説と予感」

ピアノの巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会ったエピソードが綴られています。

偶然が演出する、とてもとても美しい自己紹介が展開されます。

文章で「時間」をまざまざと見せつける筆力の圧に脱帽です。

「ユウジ・フォン=ホフマンといいます。どうぞ、よろしく」

彼が手を差し出すと、男の子はニッコリ笑って、その手をしっかり握り返した。

祝祭と予感

タイトルである「祝祭と予感」は、ご存知の通り、最初の「祝祭と掃苔」と最後の「伝説と予感」のはじめと終わりを繋ぎ合わせたものです。

祝祭の終わりには何かの予感が漂い、予感の先には祝祭が待ち受けている。

瑞々しい可能性に満ちた小説世界はこれから先もどこまでも続くようです。

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✒︎ writer (書き手)

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本サイト「シンキング・パドー」の管理人、人事屋パドーです。
非常に感銘を受けた・印象鮮烈・これは敵わないという作品製品についてのコメントが大半となります。感覚や感情を可能な限り分析・説明的に文字に変換することを目指しています。
書くという行為それ自体が私にとっての「考える」であり、その過程において新たな「発見」があればいいなと毎度願っております。

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