雷様をはじめてみる
伝説の市川雷蔵をはじめてみました。
時代劇でなくて現代劇で。
「眠狂四郎」でも「大菩薩峠」でもなく、「ある殺し屋」
せっかくのゴールデンウィークなので、二本続けてみました。
「ある殺し屋」と「ある殺し屋の鍵」
シリーズ化の予定がこの二作で終了だったみたいです。

どこまでもクールビューティーでした。
80分の傑作
監督は森一生。
撮影は宮川一夫。
脚本は増村保造と石松愛弘。
主演、市川雷蔵。
一本目が84分で二本目が80分。
一本目が圧倒的に良いです。
脇が成田三樹夫と野川由美子と小池朝雄。
若き日の小林幸子の出演はご愛嬌。

80分でまとめるところがグッド。
エレガント
以下、1本目について。
全編エレガントの連続です。
物語は時系列に進行しません。
行きつ戻りつ。
スクリーンに映し出される絵を追っていくと、それがことごとく我々が解釈したものと違った意味であることを知ることになります。
心地の良い裏切りを大げさでなく重ねていく脚本は見事です。
冒頭は一切のセリフ無しの5分あまり。
凡庸な演出であれば退屈極まりないところですが、全くの緊張感だけという感じでもなく、あくまでたんたんと流れながらも見るものを引きつける画面の密度。

職人技です。
とんでもない緊張感や緊迫感は不必要であると言わんばかりに粛々と物語は進みます。
しかしながら、一切弛緩していない。
エレガントです。
これが市川雷蔵の醸し出す品性なのだろうか。
この殺し屋は今までみたなかで、唯一「清潔感」が漂う殺し屋です。
殺し屋に「清潔感」を感じることなど夢想しませんでしたが、感じざるを得ない。
無機質でも無情でもなく、清潔なんです、雷様の殺し屋は。
脅威であり、驚愕です。
ラストシーン
ラストが秀逸です。
市川雷蔵のセリフをそっくりそのまま成田三樹夫がリピートします。
見れば誰もがニヤリとするはずです。
マルクスが言い放ったと言われている次のセリフが浮かびました。
「歴史は二度繰り返す。一度目は悲劇として。二度目は喜劇として。」
この「ずらし加減」が見事としかいいようのない演出です。
成田三樹夫にしかできない演技。
稀有な役者です。
最後にこのような「脱臼」を放り込んでくるところがエレガントのエレガントたる所以ですね。
上手い。
ところで、なぜ女は寿司折りを三人前注文するのか。
もったいぶるわけではないのですが、見事な演出なので、それは、是非ご覧になって堪能してください。

