愛のお荷物とは赤ん坊のことである
1955年の日活での第一作となる川島雄三の「愛のお荷物」をみました。
上手い。かつ、面白い。
110分は瞬く間に過ぎていくのです。
才能の塊。
愛のお荷物?
タイトルの「愛のお荷物」とは「結婚前のオメデタ(赤ちゃん)」のことを指します。
出来ちゃった婚が社会的にまだまだ許容し難い1955年当時の結婚観・家族観に基づき撮られているので、若い人が見るとピンと来ないかもしれません。
戦後の人口増加を食い止めるべき立場にある厚生大臣を主人公に、奥さん(48才)がオメデタになるところから物語は起動します。
長男の恋人(大臣秘書)や婚約中の次女の妊娠もわかり、どたばたはハッピーエンドへとノンストップでなだれ込む喜劇です。
役者揃い
コメディなので、矢継ぎ早の速射砲のごとく、セリフが次から次に飛び出します。
目まぐるしい場面転換を成立させるのは一流どころの役者さんたち。
長男役の三橋達也のダメっぷり、甘ちゃんぶりが秀逸です。
「洲崎パラダイス赤信号」のときのだらし無さも凄かったですが、このような役をさせればピカイチ。
長男の恋人役の北原三枝が本当にきれいです。
石原裕次郎夫人です。
このひとはこんなに凛として魅力的だったんですね。
はじめての「発見」でした。
素晴らしい。
次女の婚約者、公家の家柄の出、フランキー堺。
個性の塊。
スクリーンに飛び出してきたときの画面を走る緊張感は半端ないです。
存在感の悪魔だ。
恋人との長距離電話のシーンにおける、おたふく風邪を患いながらの彼のドラムソロは、今何が起こっているのかわからないぐらいの左フック&アッパーです。
いやはや。
厚生大臣の若き日の恋人、山田五十鈴。
後半に少しだけからみますが、圧倒的にスクリーンが締まります。
若いときは細面なんですね。
まともに作品をみたことがないので、ちょっとびっくりです。
これ以外にも主役の山村聡をはじめ、轟夕起子、菅井きん、殿山泰司、東野英治郎などなど豪華キャスト陣です。
意図的な雨
ラストシーンがなぜ土砂降りなのかは判然としません。
さしたる理由がないのかもしれません。
しかしながら、あらためてみるとその日は旗日なのです。
あちこちの家の前に日の丸が掲げられています。
この作品が制作されたのは敗戦から10年後の昭和三十年です。
戦争の影はまったく払拭されていません。
日の丸を雨風に晒すショットになにかを込めたのだと想像します。
「何を込めたのか」はご想像に任せます。
反骨を軟派で包み込む極めて川島らしい象徴性を帯びたさりげないラスト。