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機動戦士Zガンダム、愛憎、アクション、暴力、エモーション

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Zガンダムをついに観終わりました

機動戦士Ζガンダム -星を継ぐ者-

1979−80年に放映された「機動戦士ガンダム」の続編にあたる1985−86年放映の「機動戦士Zガンダム」全50話をようやく見終わりました。

一話が実質20分として50話なので計17時間。

見なければと思いながら20年以上の時間が経過していました。

以下、ガンダムシリーズをある程度理解されていない方には、はなはだ不親切なエントリーとなりますので、予めご了承ください。

戦争に対する表現スタンス

戦争を描く作品の中で、私がすぐに思い浮かぶのは次の三作品となります。

サミュエル・フラーの「最前線物語」

スタンリー・キューブリックの「フルメタル・ジャケット」

大西巨人の「神聖喜劇」

戦争の「全体」を描くことは誰にもできません。

ゆえに、表現者の多くは「ある視点」から描くことで「全体」に至ろうと試みます。

以上の3つの作品はいずれも「一個人としての兵士」に焦点を当てることから「全体」を表現しようとした良作です。

パドー

本シリーズの「機動戦士Zガンダム」はどうなのでしょう?

主人公のカミーユ・ビダンを中心に物語が進行するスタイルは同型といえます。

ここでは製作者たちは戦争を描きたいという欲望をあらかじめ放棄しているかのようです。

では、何が描かれているのでしょう?

パドー

ある種の尊属殺人です。

戦場という舞台装置を借りているだけ

論を進めるために以下のような雑駁な定義付けを行います。

  1. 戦争における殺人とは、顔の見えない殺人行為を指す。
  2. 戦争以外での殺人とは、顔が見える殺人行為を指す。

顔の見えない殺人行為とは「殺す側」も「殺される側」も顔が見えない、匿名性が徹頭徹尾貫かれている殺人という意味です。

この匿名性の徹底が戦場から帰還した兵士の精神の凪をある程度担保しています。

しかしながら、それに失敗する者も跡を絶ちません。

顔が見える殺人行為とは、「殺す側」も「殺される側」も共に顔が見えている、個人として認識している殺人という意味です。

その動機は常に愛憎のもつれ、または愛憎の数値化である金銭のもつれに血塗られています。

このような雑駁な二分法の網をくぐるのが、戦場ではない日常で起こる無差別殺人となります。

定義上、それは顔が見えないのであるならば「戦争」にカテゴライズされるとひとまずします。

パドー

先を急ぎます。

殺人者カミーユ・ビダン

少年以上青年未満である主人公カミーユ・ビダンは戦いの過程の中でパイロットとしての能力と資質を開花させていきます。

つまり、生き延びるのです。

それは兵士であるがゆえに多くの敵の命を奪うということと同義です。

製作者たちはカミーユ・ビダンに限らず、顔の見える殺人を執拗に描きます。

戦場においてです。

戦時は戦争状態が日常となりますが、それはいわゆる日常とはやはり異なります。

戦場が日常生活であるのは人間以外の生物たちの「野生の世界」の話となります。

わたしにはこのシリーズを「戦争作品」として捉えることが一度もできませんでした。

彼らは、たとえ裏切り者であったとしても、たとえ敵であったとしても、生死を共にした「顔見知り」の命をその手で奪うのです。

しかも、知らぬ間には一切ありません。

すべて自覚的に「こと」は行われているのです。

ある意味家族のように親しい存在と命のやり取りをし、生き残ります。

それはやはり尊属殺人の一種であると言い得るでしょう。

カミーユの末路

殺人行為を繰り返すカミーユは最終話において精神に異常をきたします

物語上は宿敵シロッコの思念に取り憑かれた形を取っています。

健全な心身を持つ若者であるため、この結末は当然の帰結と言わざるを得ません。

奇妙な物語

戦場を舞台装置に選びながら、戦争行為ではなくただの殺人行為がどこまでも描かれている。

奇妙な作品です。

と同時に、カミーユ・ビダンという主人公の「顔」が見る者に迫ってこないのです。

「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイとは大違いです。

おそらく、製作者は意図的にそのような茫洋な印象操作を行ったのでしょう。

本シリーズは、見る者にとって希薄な顔を持つ主人公に顔の見える殺人を繰り返させたユニークネスゆえに、どこまでも「顔のある作品」となったに違いありません。

戦争の影がちらつく現在、本シリーズを見終えたのも何かの縁だと思います。

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✒︎ writer (書き手)

人事屋パドーのアバター 人事屋パドー レビューブロガー

本サイト「シンキング・パドー」の管理人、人事屋パドーです。
非常に感銘を受けた・印象鮮烈・これは敵わないという作品製品についてのコメントが大半となります。感覚や感情を可能な限り分析・説明的に文字に変換することを目指しています。
書くという行為それ自体が私にとっての「考える」であり、その過程において新たな「発見」があればいいなと毎度願っております。

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