第8巻を読み終える
今回も透明な時間が流れました。
凝った作画ではないが、語られる言葉が次から次に紙面からこぼれ出ます。
そこには人を好きになることの様々なフォルムが提示されています。
以下、内容に言及しますので、未読の方はあらかじめご了承ください。
第8巻は四部構成なのだ
4つの章から構成されています。
- 乙女の祈り
- 恋と巡礼
- 姉との旅
- 満月の言霊
香田家の物語がまたひとつ先に進みます。
- 長女の幸は井上と結ばれ、
- 次女の佳乃は坂下との距離を縮め、
- 三女の千佳は浜田にプロポーズされ、
- 四女のすずは中学最後の夏を、二度とこない夏を迎えます。
特異なアングル「横顔」
吉田秋生は表現方法のひとつとして「横顔」を積極的に採用する表現者のひとりです。
日常生活において我々は人を真横から見る機会などほとんどありません。
正確に言い直しますと、赤の他人を距離を置いて眺める場合ならいざしらず、親しい人を「ま横から見る」という機会など能動的には持ちえません。
親しい者と関わる場面においては、常に正面もしくは斜め横といったアングルが大半でしょう。
表現方法としての「横顔」
映像表現においては「横顔」はごくごくありふれたアングルです。
その角度がよく採用されるにはもちろん理由があります。
簡単に言えば「内省」を露呈させるためです。
「横顔」とともに「心情」が重ねられる絵と、正面を向いた顔とともに「心情」が重ねられる絵を比べれば、そこに明瞭な違いがあることに、あなたは気付くはずです。
後者の正面の場合、揺るぎない信念や断固とした決意を伝えたい場合が多いでしょう。
しかしながら、
「横顔」の場合は言葉にならない、もしくは言葉になったばかりの心の揺れが直裁的に伝わってくるものです。
吉田秋生さんの場合
吉田の描く「横顔」にはセリフ付きとセリフなしの二種類があります。
セリフ付きの場合は大抵、1カットの場合となり「決め」に入るときが多いです。
「決め」にきているのですから、選び抜かれた「一突き」としてあなたを突き刺すことでしょう。
一方、セリフなしの場合には、1カットの場合もありますが、そうでない場合のほうがより印象を強く残します。
だいたいが2カットとなります。
横顔が連続する一連の「絵」を目の当たりにするとき、あなたは言葉が省略されたことによりはじめて実現される「雄弁」をまざまざと感じ取ることでしょう。
沈黙が雄弁を凌駕し、雄弁よりも多くのことが語られていることを思い知るはずです。
この第8巻においても「横顔」は少なくない頻度で登場します。
そのたびに少々心が締め付けられるような思いを感じざるを得ません。
「横顔」はなんと凛として、なんと寂しいのだろうと、思わずにはいられないのです。
読むたびに胸が詰まる物語。