生きることをあざ笑う生き延びることの逞しさをあなたは想像できない
手に取れば、期待通りの面白さがわかります。
クオリティーは相変わらず高位安定。
大金の向こう側
ここに登場する人物は、一部の者を除き、埋蔵金の在り処を知るために、囚人を追うハンターどもです。
埋蔵金をその手にした時に、それぞれに達成したい目的があります。
それが、宿願である場合もあれば、ただの欲得ずくという理由もあるでしょう。
いずれにしても、命が掛かっている「狩猟」であることに間違いありません。
北の果て、明治時代
舞台設定が、明治時代の北海道であるために、現代のわれわれは、遠い世界の遠い土地での物語のような錯覚に陥ってしまいます。
そのために、過激で、血なまぐさい殺戮も、ともすれば絵空事のような中和作用が働き、まがまがしさが緩和されます。
これにより、ある意味、抵抗感少なくその世界の中心に没入することができるのでしょう。
なぜ魅力的であるのか
この漫画に登場する人物は、だれもかれもが、際立つ個性をきらめかせ、非常に輝いていると言えます。
人物造形の巧みさも大いに寄与しています。
なによりもひとりひとりが、疑いもなく生を全うしているその姿に惹きつけられてしまいます。
そう、生きること生き延びることが寸分の狂いもなく合致しているのです。
生きることと生き延びること
生きることと生き延びることは、現代において、少なくとも日本国においては、完全にシンクロしているとは言い難いでしょう。
もちろん、社会的に、経済的に、そのような状況にある者が全くいないとは言い切れません。
今は、ごく平均的かつ一般的な物言いにて話を進めることにします。
生きることと生き延びることは、ある時期まで、軌を一にしていたはずです。
それが徐々に乖離していき、今では想像ができないくらいに隔たってしまいました。
目的しかない世界
この物語世界においては、言うまでもなく、生きることと生き延びることは、何らの疑いもなくイコールです。
登場人物たちは、生き延びることが目的を達成するための唯一の必要条件であり、生きることとは目的の達成にほかならない十分条件のただなかにいます。
つまり、目的しかない世界を生きているのです。
それは、ある意味、「野生の世界」であるのかもしれません。
主人公たちのいる世界はやはり動物の世界とは異なります。
彼らの生の駆動は本能であるが、ゴールデンカムイの世界においては、それは「意志」であるからです。
意志と意志とが激突する世界には、それはそれは魅力的な世界なのでしょう。