個別のケースを参考にし、自社に活かしきる
編著者である、上林憲雄氏(神戸大学大学院教授)と三輪卓己氏(京都産業大学教授)は言います。
本書は、日本企業の人事労務管理・人的資源管理に焦点を当てた日本企業8社のケース(事例)を取りまとめ、1冊の書物として編集したものである。
ケーススタディは、あくまで当該企業における意思決定の過程や結果を叙述しているに過ぎません。
しかしながら、その悪戦苦闘の軌跡を丁寧に追跡することによって、同様の状況に、もしくはそれに近い状況に置かれた実務家にとって、非常に有意義で示唆に富むヒントや見解を示してくれます。
- 経営層
- 人事担当者
- 経営企画セクション担当者
本書の構成について
本書は全部で10のパートから構成されています。
- 優良・成長企業の人事戦略
- 株式会社インテリジェンス
- 株式会社ワン・ダイニング
- 参天製薬株式会社
- ギャップジャパン株式会社
- 国内企業A社
- 株式会社フレスタ
- 株式会社公文教育研究会
- マツダ株式会社
- 人的資源管理のこれから
本書の概要
本書は4部に分かれています。
- 第Ⅰ部(1章・2章)
- 第Ⅱ部(3章・4章)
- 第Ⅲ部(5章・6章)
- 第Ⅳ部(7章・8章)
第Ⅰ部(1章・2章)理念を育成に活かす
人材育成をはじめとする人事慣行を、企業の経営理念という大元にまでさかのぼって検討し、人的資源管理と経営理念の間の整合性を高めることで求心力を高めようとしている事例である。
第Ⅱ部(3章・4章)グローバルを見据える
グローバリゼーションを見据えた社内改革に焦点が当てられたケースである。
第Ⅲ部(5章・6章)雇用を工夫する
採用制度や昇進制度などの雇用管理のあり方に工夫を加えることで成功している2社が取り上げられている。
第Ⅳ部(7章・8章)人財能力を鍛える
社員のもつ能力を開発し伸長させる仕組みに工夫を凝らしている2つのケースが収められている。
8つのケースが明らかにする4つのポイント
次の4つとなります。
- 日々のオペレーションの中で忘れてしまいがちな経営理念に今一度さかのぼって人材育成のありようを考えることの重要性
- いまや後戻りできないほどに急拡大しているグローバル市場に対処可能な人材の育成や制度の確立
- 人材の獲得から育成に至る雇用管理の現状を見直し、人材の能力が最大限発揮されるような仕組みへ脱皮させることの必要性
- 従業員の主体性・自律性の涵養を志向したライン部門主導の人材育成のあり方の追求
これからの日本企業の人的資源管理の方向性
これからの方向性として、本書では次の4つの方向性を示唆しています。
- グローバルを見据え、企業の理念・ビジョンや戦略と人的資源管理との一貫性をさらに追及していく必要がある。
- 人材のあり方に関して、有能な人材の獲得や育成に各社各様の工夫を凝らし、他社から差別化する必要がある。
- その際に、人材のモチベーション向上や自律性・主体性を喚起する仕組みを、個々の従業員や能力に鑑みつつ各社なりに工夫し、編み出していくことが必要となる。
- 総じてこれからの人的資源管理活動は、人事部の教育訓練施策に任せるのではなく、現場により近いラインが主導し、トップや他部門も含めた全社が一丸となって取り組んでいく必要がある。
今後の人事スタッフは人事分野の専門家にとどまっていては、その責任は果たせないだろう。より企業家的視野をもち、戦略的に考えることが必要になる。経営に強い関心をもち、主体的にそれを学ぶ姿勢が望まれる。