日本型雇用に関心のあるすべての労働者が「仕事とは」「働くとは」を考えるときに、決して避けては通れない書籍が出た
2018年秋に出版された本書は、
人事マンとしては読むべき本のひとつであると言い切れます。
あらためて大変勉強になりました。
人事業務関係者でなくても、
自分の働き方や仕事について真面目に正面から考えたいと決意したあなたにとって避けては通れない一冊です。
著者の海老原嗣生氏は言います。
皮相的な欧米礼賛も、愛国的に過ぎる日本型固守もやめ、時代の流れと社会の変化と、日本型雇用の行く末を考えてみてください。
現在の日本型雇用の本質について、歴史的経緯を踏まえ過去から現在へと丁寧な説明がなされます。
ユニークなのは、その時代ごとの社会観や労働の変化を端的に表している17冊(海老原氏の著作を含む)の著者と本書を執筆した二人の往復書簡という構成をとっている点にあります。
それゆえに、著者自身の生の声を聞くことができるとともに、
時を経たからこその自著を振り返る客観性なども垣間見れて、非常に興味深い仕上がりとなっております。
17人のオーソリティ
往復書簡を取り交わす専門家たちは以下のとおりです(敬称略)。
・ジェームス・アベグレン
・山田雄一
・楠田 丘
・小池和男
・伊丹敬之
・大沢武志
・野中郁次郎
・島田晴雄
・高橋俊介
・太田隆次
・清家篤
・八代充史
・八代尚宏
・濱口桂一郎
・今野晴貴
・中野円佳
・海老原嗣生
強力すぎるラインナップです。
本書の構成は、日本型雇用の変遷の流れがそのままに章立てとなっています
戦争と復興動乱が生んだ奇跡
欧米信奉の呪縛からの解放
安定成長が生んだ万能感
ほころびと弥縫策
切り捨てと、そのしっぺ返し
内部崩壊と新生の手掛かり
各章で取り上げる関係書は次のとおりとなります。
「日本の経営」
「能力主義管理ーその理論と実践」「職能資格制度ーその設計と運用」
「日本の熟練ーすぐれた人材形成システム」「人本主義企業ー変わる経営、変わらぬ原理」「心理学的経営ー個をあるがままに生かす」「知識創造企業」
「日本の雇用ー21世紀への再設計」「人材マネジメント論ー経営の視点による人材マネジメント論」「日本企業の復活 コンピテンシー人事ー活用の仕方」「定年破壊」
「新時代の「日本的経営」オーラルヒストリーー雇用多様化論の起源」「雇用改革の時代ー働き方はどう変わるか」「新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ」
「ブラック企業ー日本を食いつぶす妖怪」「「育休世代」のジレンマー女性活用はなぜ失敗するのか?」「お祈りメール来た、日本死ねー「日本型新卒一括採用」を考える」
過去に読んだものもありますが、今更ながら錚々たるラインナップに圧倒されます。
日本型雇用の特徴・特色をつかみ、自分の頭で考えてみる。批判はそれから
本書を通読する最大の収穫は、
世の中の偏見に満ちた「日本型雇用や働き方」に対する先入観を洗い流すことができる点に尽きます。
根拠薄弱や耳障りのいいプロパガンダがいかに意図的であり誘導的であるかが自ずからわかるでしょう。
- だから日本はだめなんだで、終わらないために、
- あなた自身のこれからの働き方の未来を考えるために、
過去に学ぶことはとても大切なことだと思います。
日本以外はどうなのかを知れば、日本の現在位置が確認できるのです
本書を読むと、
われわれが当たり前に許容・共有している人事の成り立ちをとても簡易な言葉によって解説してくれます。
たとえば、
あなたも一度は耳にしたことがあると思います。
欧米はジョブ型ですが、日本はそうではない。
もう少し、詳しく言うと、
欧米は「職務主義」であり、日本は「能力主義」である、と。
- 職務主義とは、給料は仕事が決めるという考え方です。
- 能力主義とは、給料は人の能力が決めるという考え方です。
著者の海老原氏は次のような「たとえ話」を駆使し、2つの考え方の違いを鮮明にします。
外国語教室にて
・英語しか話せないアメリカ人講師のジョンさん
・英語とドイツ語が話せるアメリカ人のポールさん
受け持ちはいずれも英会話の授業です。
ふたりとも同じ英会話の授業を担当しますので、時給は同じです。
働く本人の教養や能力に差があったとしても、同じ仕事をしている限り、給料は変わりません。
このような考え方が「職務主義」となります。
一方、日本ならどうでしょうか?
ポールさんはジョンさんよりドイツ語が話せる分、能力が高いです。
従って、ポールさんの方が時給が高くて当然だな。
これが日本人の標準的な考え方です。
給料は人の能力が決めるという「能力主義」の考え方がこれにあたります。
別のところでは、次のような記述がみられます。
「欧米型ならホワイトカラーは月給制か年棒制で、時間労働と給与が結びつかない仕組みであり、ブルーカラーは時給制で査定や勤務評価よりも労働時間が給与を決めるという仕組み」。対して、日本はブルーカラー、ホワイトカラーで給与の支払いに区別がなく、双方とも残業代が支払われる得意な慣習。この、月給と時間給の中間形態を取る給与により、皆、長時間労働をいとわない風土が生まれる。
このような基本認識を抜きに残業問題は議論されるべきではないのですが、
あなたの会社ではどうでしょうか。
ワーク・ライフ・バランス大国の実情
本書には、他国の事例に基づく議論も少なからずあるために、日本の現状をより多角的に検討できます。
次のようなエピソードに触れ、あらためて考えさせられました。
以下に要約します。
フランスの年間総労働時間は1,500時間足らずです。
残業は一切なく、有給も協定で決められた40日を完全消化します。
夏休みは3週間。
あなたの第一声も「羨ましい」でしょうか。
フランス人に生まれたかった?
続きがあります。
彼(彼女)らは、ほとんど昇給も昇進もしない生活です。
大学を出ていない人の場合、彼らの年収は50歳で勤務している正社員であっても、
350万円に満たないサラリー水準のようです。
大卒の場合は「中間的職務」というカテゴリーに就けます。
それでも、50歳勤務者で年収は500万円に届きません。
彼(彼女)らの最高職位は、アシスタントマネージャーレベルです。
日本なら、係長というところです。
フランスでは、労働者の実に85%がこのいずれかのカテゴリーに属しています。
キャリア形成や「やりがい」とは無縁の職業人生です。
しかしながら、
ワーク・ライフ・バランスは超絶に充実しています。
どちらが先とはいえませんが、
わたしには、
ワークで充実感を得る道が閉ざされているのだから、
そりゃ、ライフに賭けるしかないわなと思うんですが、
あなたはどう思われますか?
取り上げられた書籍をあらためてご紹介します
関心が少しでもあるのならば、手にとって自分の頭で考えるためのヒントにすべき名著ばかりです。
人事に長年携わっていますが、正直、未読のものもちらほらあって、恥ずかしい限りです。
楠田丘先生はこちらのほうが求めやすいかもしれませんね。
数年前に講演を聞きに行きましたが、いつまでもお元気ですね。
・オーラルヒストリーは分厚いのですが、面白そうなので買いました。
・濱口先生のは定番中の定番です。
誰もが階段を上れる社会の「階段」は今にも崩れ落ちそうだ
新卒はだれもが幹部候補
誰にでもキャリア形成が許されるという全員エリート型社会は終わりの時を告げようとしています。
「階段」は限られた人しか登れないどころか、「階段自体」が消滅しようとしてしています。
生き残るために、ぜひ本書を手にとって、自らのキャリアをその手でデザインしてください。