制服の着替え時間の問題点を今一度整理したい
労働時間管理の徹底がこれまで以上に企業に求められている現在、ユニフォーム(制服・作業服)の着脱時間に関する扱いは企業にとって慎重な対応を迫られる課題であると言えます。
過去、制服や作業着等の着脱時間を労働時間として認めるかどうかについては度々争われてきましたが、過去の裁判例においても実のところ判断が分かれます。
このエントリーは、一般事務職の着脱時間が労働時間に該当するのか否かを検討するために調べた結果、ケースバイケースにて都度判断されるべきデリケートな案件であるとの結論に至ったために、同様の問題を検討する際の参考になればと思い、掲載することとしました。
着替え時間は労働時間にはあたらないという立場からエントリーしているわけでは決してないことを十分にご理解の上、読み進めていただければと思います。
作業着等の着脱に関する主な過去判例
- 日野自動車工業事件 (最高裁昭和59年10月)
- 石川島播磨東第二工場事件 (東京高裁昭和59年10月)
- 住友電工大阪製作所事件 (大阪地裁昭和56年8月)
- 三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月)
過去の判例において、制服の着脱時間が労働時間か否かについては判断が分かれています。
訴訟の際は個別の会社事情等に鑑み判決が下されていますが、私の知る限り一般事務職の制服に関して正面から争われた事案は今までないと思われます。
デリケートな問題であるため、企業として敗訴の可能性を根絶したいのであれば、制服の廃止もしくは労働時間と認め給与を支払うかのいずれかの選択となるでしょう。
仮に、廃止もせず、時間外手当も支払わない場合は、訴訟可能性を排除できないために潜在的な企業リスクは残ってしまうことを十分認識しなければなりません。
そのようなリスクを考慮し、制服を廃止する企業も出てきています。
制服の着脱時間が労働時間にあたるかどうかの目安とは
制服の着脱時間が労働時間にあたるのかどうかの判例に基づく目安は次の通りです。
- 会社で制服着用が義務付けられている。
- かつ、制服での通勤を認めていない(更衣場所を会社が指定している。社外での着用禁止)。
- かつ、制服についての点検がその場で行なわれている。
- かつ、制服を着用しない場合、ペナルティがある。
どれかひとつが該当すればよいというのではなく、全てが満たされていることが条件であると解釈するほうが説得性が高いです。
義務付けについては、就業規則等で定めはないが、慣行として義務付けている企業も多いでしょう。
また、妊娠中の従業員については事情を考慮し、私服の着用を認めているところもあります。
都市圏で公共交通機関を利用する場合においては、
制服着用の通勤が一般的ではないので、更衣場所を会社が指定しているわけではないとの主張は、理解はできるものの同意が得がたい主張の一種であると言えます。
2017年現在の流れは、着替え時間は労働時間にあたるという考え方が強くなってきているように思われます。しかしながら、あくまで通勤時間と同じくらい「準備時間」であるとの主張も珍しくありません。
労働時間ではないとする場合の主な主張とは
一般事務職の着替え時間は労働時間に該当しないとの一般的な企業の主張は次の通りです。
- 一般事務職の制服の着脱時間は通常5分程度であり、負担は軽いこと。
- 制服の着脱は、労働力の提供のための準備行為であって、労働力の提供そのものではなく、使用者の直接の支配下におかれているわけではないこと。
- 更衣時間を労働時間と見なし時間外手当を支払っていない企業が一般的であること。
- 更衣室内では純粋な更衣のみが行なわれているのではなく、軽食の摂取、雑談、化粧直しなど業務とは程遠い行為もなされているために、更衣室での準備時間は労働時間の範囲外と一般的に見なせること。
企業における選択肢とは
制服の廃止・継続は、労働問題的側面だけを考慮するのではなく、多面的に検討し、決定する必要があります。
選択肢は次の3つに絞られると思われます。
- 制服を廃止することのメリット、デメリットを勘案し、世間の大勢に鑑み、現状のままの対応とする。
- 法的グレー性を排除し、かつ制服を継続することのメリット、デメリットを勘案し、制服の着脱時間を労働時間と認め、時間外手当を支払う。
- 法的グレー性を排除すために、廃止することのデメリットに目をつむり、制服を廃止する。
制服廃止にあたってのメリット・デメリット
制服を廃止するのかしないのかについて検討を行なう際のメリット・デメリットを企業側、従業員側に分けて以下に示します。
メリット
企業側
- 制服の購買維持費用がなくなる
- 訴訟リスクが排除できる
- コンプライアンスの徹底化が図られる
- 制服管理業務がなくなる
従業員側
- 着脱の手間がなくなる
- 出勤と退勤時間に余裕が生まれる
- 制服を強制されなくなる
- 服装における自己主張の度合いが高まる
デメリット
企業側
- 私服による服装管理が原因となるトラブルの懸念
- オフィスにふさわしい私服のドレスコードを決める必要がある
- ハラスメントを誘引する可能性が増大する
- 一体感の希薄化
- 企業イメージのダウンの懸念
- 企業カラーが理解されにくい
従業員側
- オフィスにふさわしい私服を購買するための費用の負担増
- 毎日のコーディネートのわずらわしさの増加
- アフターファイブにおけるファッション性の制限
- ハラスメント機会の増加の懸念
- 仕事モードに切り替えにくい
制服復活の流れもある
業種や業態にもよりますが、私服での勤務が普通の職場は、なにを悩ましいことがあるのだとピンとこられないでしょう。
一般事務職の制服着用が根付いている企業にとっては、このような制服の着用や着替え時間の取り扱いは、慎重な対応を迫られる案件となります。
今年、大手銀行が制服を復活したという報道がありました。
確認しましたが、これまでの論点がどのような形でクリアされたのかは、残念ながら追っかけることができませんでした。
おそらく、十分な話し合いの結果、労使の協調が図られたものと考えます。
メリットデメリットを総合的に判断し、企業は独自文化と法律との折り合いをつけるべく自らの道を模索する必要に迫れれているのです。