長時間労働の悲劇
痛ましい事件が繰り返されました。
大企業に勤務する将来のある若者が自らの命を絶ったのです。
その原因が新聞報道によると長時間労働であるとされています。
ネットでは、セクハラやパワハラなどのハラスメントが関係しているという発言もあります。
情報そのものが限定的であるため、即断は避けられるべきですが、長時間労働が大きく影響していることだけは間違いないようです。
このような悲劇を引き起こす長時間労働(特に非管理職に対する)がなくならない制度上の原因は次の2点であると考えます。
- 長時間労働を法律で上限規制していないため
- 割増賃金率が低いため、人を別にひとり雇うと高くつくため
これらがクリアされない限り、長時間労働はどこまでいっても、働く側、働かせる側の問題に収斂していき、なくならないでしょう。
以下は、長時間労働はもとより、時間外労働は規制されるべきであろうという立場でのエントリーとなります。予めご了承ください。
長時間労働の法的上限規制
法律上、非管理職に対して時間外労働をさせることは禁止されています。
残業はどの企業においても当たり前になされていますよ。
けれども、そのことにより企業の不名誉が新聞に載ることもありません。
なぜ?
36協定が企業と労働者代表(企業内組合)の間で締結され、届け出がなされているからです。
どこまで残業が可能なのかのラインの取り決める約束です。
通常は、月間45時間以内にて締結がなされます。
特殊な事情がある場合は例外的に45時間を超えて締結されることがあります。
大手企業においても、そのような届け出実態があったことは、過去の新聞報道のとおりです。
有名企業が100時間を超えて締結がなされているのを見て、当時驚いたものです。
繰り返しますが、法律的には時間外労働は禁じられています。
36協定を締結し届け出を行うことで、法律に反しても免罰が働くという仕組みでとなります。
ちょっと分かりづらい。
この36協定により、企業は事実上、時間外労働を一定程度労働者に対して要求できうることになります。
長時間労働に対して上限規制を行ってしまえば、長時間労働はやりたくてもできなくなるというわけです。
従って、
(1)長時間労働の上限規制の法律化とこれに伴う36協定を廃止する
この組み合わせで長時間労働を要求するための企業側の理屈は消滅します。
コンプライアンスの徹底が社会的ニーズとして無視してはいけないこのご時世、法律を逸脱してまで利益を追求する企業は、まともな企業である限りないはずです。
割増賃金率の大幅増
一日の労働が8時間を超えると企業は非管理職に対して割増賃金を支払わなければなりません。
通常、22時までの割増賃金率は25%増と決められています(深夜勤務や休日勤務はもっと割高になる)。
この程度の率であれば、
別の労働者を雇用するよりもコストが安いために、労働者に時間外労働を要求します。
それが経済合理性に即した企業行動なのです。
別の労働者を雇用するコストとそれほど変わらない場合は、その業務内容が属人的要素が極めて薄いときには、雇用の確保を優先するならば、別の労働者を雇用することが自然に促進されます。
さらに、時間外労働の割増率が別の労働者を雇用する場合よりも遥かに割高である場合、事実上、時間外労働は経済合理性が働き、抑制されてしまうでしょう。
従って、
(2)割増賃金率を労働者をひとり雇うコストかそれ以上になるぐらいのレベルに設定してしまう
上記の(1)と(2)を念頭に置いて法律を改正すれば、長時間労働はやらせたくても、やりたくても、できなくすることは可能となります。
現実的な対応においては、企業論理(利益確保)やその他法律との整合性の維持確保等、一筋縄ではいかないところがいくつもあると考えられるが、原理的にはできない話ではありません。
管理職に対する抑制策とは
以上の施策は、非管理職に対しては極めて有効な方法です。
一方、管理職に対しては別の施策を考える必要があります。
現時点で考えられるのは「勤務間インターバル規制」でしょう。
これは、労働が終わったときから一定程度休息をしない限り、次に労働を始めることを禁止する規制です。
たとえば、
インターバルを11時間と取り決めた場合、24時に労働が終了したときは翌朝の9時以降にしか労働することができないという仕組みとなります。
厚労省は現在、働き方改革の一環として、規制の本格検討に入っています。
自主的導入や努力義務のレベルに終始するならば、有名無実化することは避けられないでしょう。
そのために、EU圏のような実効性の高い規制のあり方が求められるのです。
命を最優先するために、既存の枠組みを抜本的に見直す施策を強く希望します。