心身ともに健康な労働者でなければ、高いパフォーマンスは発揮できない
医学博士の吉野聡氏は言います。
本書では、これまでわが国で講じられてきたメンタルヘルス対策の問題点や誤りを整理した上で、本当に経営に資するメンタルヘルス対策とはどのようなことなのか、筆者が40社以上の精神科を中心とする産業医経験をもとにお話しさせていただきたいと思っている。
企業が付加価値を社会(市場)に提供し続けるためには、個々の従業員の「労働時間」「能力」「コンディション」の最適なバランスが確保されていることが不可欠です。
つまり、この三者の相乗をいかにして最大化するのか、これがメンタルヘルス対策の究極的な目的であり、経営に資するメンタルヘルス対策のポイントになると考えている。
- 経営層
- メンタルヘルスに関心のあるビジネスパーソン
- 職場の生産性を上げたいと考えるマネージャー
本書の構成について
本書は全部で5章から構成されています。
- 改善されない「経営課題」としてのメンタルヘルス
- メンタルヘルスに対する職場での正しい理解
- コストから投資に変えるメンタルヘルス対策の考え方
- ストレスを前向きに捉える人材の育て方
- ストレスを職場の活性化につなげるマネジメント方法
メンタルヘルス対策の2つの視点
次の2つの視点(軸)が重要であると著者は言います。
- 時間軸
- ストレスをどのような存在と捉えるかの軸
時間軸
2つに分かれます。
- 事後型 起こってしまった事例に対して事後的に取り組む
- 予防型 事例が発生する前に予防的に取り組む
ストレスをどのような存在と捉えるかの軸
2つに分かれます。
- 配慮型 ストレスを悪いものと捉え、できる限りストレスを低減することにより対応しようとする
- 成長型 ストレスを人生の糧と捉え、自己成長に繋げていく
メンタルヘルス対策の4つの分類
先の2つの軸の組み合わせによって、次の4つに分類できます。
- 予防成長型
- 予防配慮型
- 事後成長型
- 事後配慮型
事例が発生してからモグラ叩き的に事例を解決させようとする事後的なメンタルヘルス対策から、事例が発生しないような施策を確実に講じる予防型のメンタルヘルス対策への変換が必要である。
職場におけるメンタルヘルス不調の3類型
- 精神病型メンタルヘルス不調
- 過負荷型メンタルヘルス不調
- 不適応型メンタルヘルス不調
精神病型メンタルヘルス不調
職場環境に大きな原因があるというわけではなく、本人の素因や遺伝的要因などがその発症要因としてあげられる。
過負荷型メンタルヘルス不調
職場における過重労働やハラスメントなどの過重な精神的負荷を原因に発症する。
不適応型メンタルヘルス不調
職場において仕事をしていく上では、当然に予想されるような出来事をきっかけに発症し、職場から離れると速やかに症状が消退する。
企業が適切な労務管理を中心としたメンタルヘルス対策を講じてきているにもかかわらず、メンタルヘルス不調が減らない(というよりもむしろ増加している)のは、この「不適応型メンタルヘルス不調」が増加していることに原因があると考えることが妥当なのだと思う。
不適応型メンタルヘルス不調が増える背景
主に次の4つがあげられます。
- 業務の複雑化
- 雇用体系の多様化
- 通信網発達による精神的緊張感の増加
- 情報化社会による時代の進化スピードの上昇
急速な時代の変化に自らを適合させることに失敗した結果が一番顕現化しやすいのが、労働環境下であるのかもしれません。
ストレスは主観的なものである
ストレスはどこまでいっても主観的なものです。
つまり、
感じ方や捉え方によって、その程度は変わってくるものなのです。
ある出来事に対して、どう感じるのか(どう捉えるのか)がストレス反応として現れます。
例えば、
職場で怒られたときに、
ストレスに弱い人ならば、怒られることは恥ずかしいことだから気持ちが落ち込むという心理的過程をたどります。
一方、
ストレスに強い人ならば、怒られることは期待されている証拠だから奮起して頑張るという心理的過程をたどるでしょう。
少しばかり、図々しく、自己中心的な考え方に寄っている方が、ある意味、ストレスが向こうから逃げてくれるのかもしれないのです。
主観的要素が強いものであるからこそ、「自分勝手」な前向きさで、これからの時代は特に物事を捉えていくべきなのでしょう。