毎年2万人以上の待機児童が生まれる日本の現実
前田正子氏は言います。
本書では、なぜ少子化が進展するなかで待機児童が減らないのか、なぜ保育所がなかなか増やせないのか、認可と認可外の違いは何か、約76万人ともいわれる「潜在保育士」はなぜ保育所で働かないのか、保育所の事故予防はどうなっているのか、など基礎から日本の保育が抱える課題を解決していきたい。
保育所の問題は国全体の課題であると同時に、企業にとってもシリアスな問題です。
優秀な働き手の損失危機は、企業競争力に深刻な影響を及ぼしかねません。
なによりも、働き手のキャリア形成を大きく阻害することになるのです。
現在起こっている状況について、子育ての経験者であり、行政側としてこの問題に取り組んできた著者の総合的な考察は、実りある議論の際の問題点の交通整理に大いに参考になると思われます。
- 人事部
- 保育問題に悩む社員
- 経営層
本書の構成について
本書は全部で6つのパートから構成されています。
- 保活に翻弄される親たち
- 日本の保育制度をつかむ
- 待機児童はなぜ解消されないのか
- なぜ保育士が足りないのか
- 「量」も「質」ものジレンマ
- 大人が変われば、子育てが変わる
保育料をめぐる3つの論点
保育料をめぐっては実に様々な議論があります。
代表的な論点は次の3つです。
- 認可保育所を利用しない専業主婦や、認可外保育施設を利用している人からの不満
- 応能負担
- 税収が豊かな自治体とそうでない自治体の保育料の差
認可保育所を利用しない専業主婦や、認可外保育施設を利用している人からの不満
認可保育所に入れた人だけに手厚い公費投入があるのはおかしいという不満は少なくありません。
これと表裏なのが、所得が高いために保育所に入れなかった子供の親からの苦情でしょう。
「私たちは、一生懸命働いて税金も納めているのに、なぜ認可保育所に入れないのか。何のために高い税金を納めているのか」と苦情が絶えず、
その理由は、認可保育所に入所できるのは正社員のフルタイムの世帯が優先され、その中でも、所得の低い方が優先される自治体が多いためなのです。
応能負担
自治体はいずこも慢性的な財源不足であるために、負担能力のある人には負担してもらうという基本スタンスをとっています。
国の基準では、世帯年収が1130万円以上の場合、保育料は月額10万円を超えます。
私立大学の授業料とあまり変わらない現実がここにあります。
そうした保育料を支払う夫婦が、「私たちが子どもを産むことは歓迎されないのか?」と尋ねたら、どう答えられるだろうか。
税収が豊かな自治体とそうでない自治体の保育料の差
財政が厳しい自治体の保育料は高いために、若い世代は経済的な判断を働かせます。
それにより、若者の流出は加速し、高齢化、過疎化という悪循環が成立するのです。
そうした都市部に若い世代が集中することが、待機児童を生み出す要因のひとつにもなっているのである。
保育所を根付かせる
保育所が地域に受け入れられ、子供たちが地域の人々に見守られながら育つためには、次の5者の協力が不可欠となります。
- 運営事業者
- 設計・建築事務所
- 行政
- 保護者
- 地域の人々
まずはじめに求められるのは、運営事業者が地域と共存しようという姿勢を持つことでしょう。
現在は、子供の声は騒音であると近所の老人がクレームをつける時代であり、それほど自己の権利の主張は激化しています。
お互い様という概念が共有されない時代における「子育て」は格段にハードルが上がってきています。
未来への投資
保育所をはじめとする子育て支援が社会にとってコストであるという認識は今もって根強いです。
社会全体が豊かになるために必要なある種の「糧」と捉え、国全体で負担を分かち合う考え方に転換していくべきなのでしょう。
子どもたちへの投資は、私たちの未来への投資でもある。