組織の中に自分を信じてくれて、成功を喜んでくれる上司・同僚を持つことが重要なのです
野村総合研究所未来創発センターで働く武田佳奈氏は、ご自身の経験から本書を書き上げておられます。
つまり武田さんご本人も「フルキャリ」なのです。
フルキャリってなに?
フルキャリとは、暮らしにも子育てにも、仕事にもキャリアにも、意欲的に取り組みたいと考える働き手の総称。
その対象は性別を問いませんが、本書においては女性のキャリアに焦点をあて、話を進めていく構成となっています。
フルキャリの活躍につながるマネジメントは、性別を問わず全てのフルキャリに有効だと考えています。
フルキャリの出現、認知以前には、一般的に女性の働き方と言えば、次の2つのタイプという理解が大半でした。
- バリキャリ
(家庭やプライベートの都合を仕事の制約にせず、男性と対等に、仕事での成功やキャリアアップを追求する ) - ゆるキャリ
(家庭やプライベートの時間を確保することを優先し、それが可能となる範囲で仕事をしたい)
実際のところは、日本企業のこれまでの職場環境が、彼女たちに二者択一を強いてきた結果ともいえるかもしれません。
繰り返しますが、
結婚か仕事か、子どもか仕事かというように、どちらか一方を選ぶ、もしくはどちらか一方に重きを置くのではなく、理想的にはどちらも全うしたいと考えているのがフルキャリのスタンスとなります。
本書は、このようなフルキャリを部下に持つマネージャー層を読者と想定し、書かれています。
マネージャーとしてフルキャリとどう向き合うとフルキャリのパフォーマンスを最大化でき、チームパフォーマンスを最大化できるかといった視点で書いてきました。
と同時に、
本書は、母親としても、ワーカーとしても、頑張りたいと日々努力しているフルキャリ女性に対する実践的で共感に満ちたエールが満載です。
目の前のチャンスに、働き方の制約やリスクがあるからといって遠慮し過ぎず、誰かの精一杯と同じではなくてもよいから、あなたの今の精一杯で応えていってみませんか。
- フルキャリを目指す女性
- 女性の部下を持つマネージャー
- 女性の働き方に取り組む人事
今まで読んだ、子供を育てながら働く女性関連の本の中で一番共感できた本でした。女性を部下の持つマネージャーの適切なスタンスを考える際に非常に参考になる一冊であると思います 。
本書の構成について
本書は、全部で6章から構成されています。
- 女性の部下の育成に自信が持てない管理職
- なぜ、女性の部下のマネジメントが難しいのか
- フルキャリは何を望んでいるのか
- フルキャリの活躍を引き出すマネジメント
- 「ワークライフバランス」から「ワークライフ&グロースバランス」へ
- フルキャリのパフォーマンス最大化のために企業がすべきこと
各章におけるポイントとは
次の通りとなります。
第一章
女性本人も、自身の本音がわからないまま職場に復帰する場合が少なくないために、マネージャーは女性の本音が見えないと必要以上に指導育成に悩まないようにしましょう。
第二章
ダイバーシティが当たり前になるこれからの職場環境において、フルキャリのパフォーマンスを最大化できるマネージャーこそが組織にとって必要不可欠な存在となります。
第三章
フルキャリのパフォーマンスを最大化するには、偏見を持たずに、彼女たちの思いや考えをきちんと理解する必要があります。
第四章
フルキャリの活躍を引き出すマネジメントのカギは、3つの「き」、すなわち、「期待」「共有」「機会付与」となります。
第五章
「成長と貢献(グロース)」への期待があり、実感があることこそが、フルキャリの「ワーク」と「ライフ」の両立の原動力となるのです。
第六章
フルキャリのパフォーマンス最大化のために必要なのはマネージャーが職場環境整備を徹底することにあります。
女性の部下に対するアンコンシャス・バイアスとは
あなたも次のような思い込みに支配されてはいないでしょうか?
- 子育て中の女性社員は泊りがけの出張はできない
- 時短勤務で働く社員は家庭優先である
- 子育て中の女性に重要な仕事を任せるべきではない
これらは、働く女性に対するアンコンシャス・バイアスの代表例です。
アンコンシャス・バイアスとは、過去の経験や周りの環境などから、自分自身では気づかないうちに身についたものの見方や捉え方の偏りを指します(出典:知恵蔵)
マネージャーのあなたは、女性の部下を「無意識の偏見」や「無意識の思い込み」により理解してはいないでしょうか?
子育てをしながら働く女性を一括りにして理解し、その思い込みを押し付けてしまうと、フルキャリとのギャップは増長していくばかりとなります。
フルキャリは、上司による配慮は正直もどかしいと思っています。
「子供を預けてまで働くのだからこそ」という独特なモチベーションをきちんと理解する必要があります。
上司による配慮がフルキャリ部下の意欲をそぐことがあることをあなたはよくよく認識しておくべきなのでしょう。
フルキャリにとっては「無理しないで」のひと言は戦力外通告と同じ意味になりかねないワードなのです。
フルキャリの場合は、よかれと思って掛けた言葉や行った対応が意欲の低下につながる可能性があることを認識することが重要だと考えます。
型にはまった見方を押し付けるのではなく、ひとりひとりと向き合い、丁寧にマネジメントすることがマネージャーのあなたには求められているのです。
3つの「き」とは
フルキャリの活躍を最大限に引き出すマネジメントには3つの「き」が必要不可欠であると武田さんは言います。
3つの「き」
- 期待
- 共有
- 機会付与
もう少し詳しく言うと、
3つの「き」
- 仕事での成長・貢献を期待する
- 仕事への意欲と取り巻く家庭環境の状況の共有
- 成果につながる積極的な機会の付与
あなたが真っ先に行わなければならないことは、本人に確認し、具体的に把握することでしょう。それと同時に、本人にこちらの思いや考えをきちんと伝え、自覚を持たせることが大事なのです。
ワークライフ&グロースバランスとは
フルキャリのパフォーマンスを最大化するためには、従来からのワークライフバランスだけの視点では物足りないと著者は言います。
「グロースの視点」を欠いてはいけないと述べています。
グロースとは、成長の意味で用いられていますが、個人の成長に限ったものではなく、自身の成長とそれを通じた組織への貢献、すなわち「成長と貢献」という包括的な意味が込められています。
フルキャリ本人も、そしてフルキャリのマネージャーも、仕事と子育ての両立をしながらでも、仕事でも成長や貢献するという意識をしっかりと持ち合わせることが重要だと考えます。
フルキャリを部下に持つマネージャーに求められているのは、
- 仕事でも自身を成長させたい
- 周囲の人に貢献したい
というフルキャリの思いを、自覚させ続ける働きかけなのでしょう。
フルキャリのワークライフ&グロースバランスマネジメントを支える会社支援とは
円滑かつ効果的な実行をサポートするために企業が行うべき取り組みは、3つあると著者は言います。
業務・キャリア形成支援
- 個別の成長・キャリア開発を可能にする環境整備
- 勤務体系・配属要件等の柔軟化や変更
- 働き方の多様化
ワークライフ両立支援
- 早期復職支援
- 保育サービス・利用サポート
- 送迎通勤サポート
- 長期休暇の子の預かりサポート
本人支援
- 本人の意識改革
- 休職中の健康とモチベーション支援
- 働く女性の健康サポート
ここには、理想論もあれば、大企業だからこそ実現できる施策もあげられています。
まずは、自社の企業文化や規模に応じて、実現可能性を模索すべきであると考えます。
頑張っている人を応援したい
仕事も家庭もどちらもということがどれだけ都合のよいことなのかは、調査の過程で出会った多くのフルキャリも自覚していました。そのような状況で、「どちらも頑張ることを応援する。仕事でも期待している」というマネージャーからのメッセージがどれだけ身に染みるかは、想像に難くないのではないでしょうか。
職場には、まだまだ、働く女性に対する偏見や憶測などさまざまなネガティブな感情が渦巻いています。
「あの人だけズルい」や「私だけ損だ」という発言をしばしば耳にするはずです。
産休明けの女性は特にこのような色眼鏡で異性同性を問わず、ともに働く仲間から見られがちとなります。
フルキャリという働き方を口にすると、「なにを贅沢な」や「しわが寄るのはこっちなのに」という周りの人たちの顔が浮かんでくるかもしれません。
フルキャリに対する考慮や配慮が特別ではなく、通常である環境づくりに現場を預かるマネージャーのあなたは励む必要があります。
何よりも、
頑張っている人を応援したいという人間であれば本来持っている自然の情がごくごく当たり前に発露できる職場環境づくりをあなたは周りの人間ともども、目指さなければならないのです。
フルキャリ女性のためだけではなく、職場で働くすべての人のために。