働き方と社会保障を一体のシステムとして、根本からわかりやすく教え、学ぶための入門書
亜細亜大学教授の権丈英子氏は言います(講演会をベースにした内容であるため、会話調の文体となります)。
人口減少社会の中で、労働力の相対的価値は高まり始めているのだと思いますし、それを原因とした経済変動は、経済の発展と呼びうるものになるのではないかとみております。今日も何度か話しました、「労働力希少社会」に入ったわけです。
昨今、少子高齢化の進展により労働力不足が懸念され、労働力不足のマイナス面ばかりがクローズアップされています。
しかしながら、
不足しているとは、すなわち、労働力の希少性(価値)が増す(上がる)というプラスの側面があることも忘れるべきではないと、著者は指摘します。
これからの労働を考えるときにこの視点は議論の幅を広げます。
労働力の担い手であるあなたは、労働力の希少性がこれからますます増してくる社会(時代)を生きることになるのです。
働き方を考える上で、アカデミックな背景を知りたい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
- 今後の働き方について集中して考えたい方
- 社会保障の側面から今日の労働について学びたい方
- 人事部門関係者
本書の構成について
本書は全部で5章から構成されています。
- 働き方の改革と、これに関わる社会保障の動きの概観
- 民間企業と公務員における高齢期雇用
- 女性活躍推進法と女性労働の現状と課題
- パートタイム労働法とパートタイム労働の現状と課題
- オランダにおける柔軟な働き方の活用と政策展開
本書は、二部構成をとっています。
- 前半は、「手早く知りたい人のために」として、働き方の改革の全体像を講演ベースでまとめてあります。
- 後半は、各章を設け、もう少し詳しく知りたい人のために解説がなされています。
本書では、各章に関連しているものの、少し横道にそれる話を「知識補給」としています。
これは長めのコラムのようなものです。
そのほかに、各巻末に「練習問題」が載ってます。
内容整理のために、問題を解いてみてはいかがでしょうか。
労働力活用の2つの類型
・分業型社会
1人あたりの労働時間が長い
限られた人だけが働く
男女の働き方の違いを前提にしている
・参加型社会
1人あたりの労働時間が短い
より多くの人が働く
ワークライフバランスの考え方に親和的
生産労働人口の減少や、育児や介護などの必要に迫られ、より短い時間での労働を希望する人たちの増加に伴い、分業型で総労働時間を確保することが難しくなってきています。
日本は、長時間働くことができない人たちにも、労働市場に参加してもらい、できるだけ多くの人に働いてもらうという参加型に移行せざるをえない現状であると言えます。
労働希少社会の幕開けです。
言葉から働き方を眺めてみる
本書では、ユニークな試みとして、新語・流行語大賞受賞語の年表が掲載されています。
働き方に関連しそうな受賞語を著者がピックアップしたものです。
こうして整理されたものをあらためて見てみると、労働観の変遷がよくわかります。
- オシンドローム(1984)
- アグネス論争(1988)
- 5時から(男)(1988)
- セクシャル・ハラスメント(1989)
- DODA/デューダする(1989)
- 24時間タタカエマスカ(1989)
- バブル経済(1990)
- 就職氷河期(1994)
- DV(2001)
- ネットカフェ難民(2007)
- 名ばかり管理職(2008)
- 蟹工船(2008)
- 派遣切り(2009)
- イクメン(2010)
- ブラック企業(2013)
- マタハラ(2014)
- 一億総活躍(2015)
- 保育園落ちた日本死ね(2016)
時代が感じ取れます。
あらためて眺めてみると、時代の影響を強く受けていた一律的な働き方から、個人の人生観に沿った働き方へのシフトがなされていることが見て取れます。
労働力が不足することは深刻な問題ではありますが、反面、労働力の価値が高まることも意味します。
自らの「労働力」を見つめ直してみることの重要性が、今ほど高まっている時代はないのでしょう。