企業労働法のスペシャリストが語る、今求められている「改革」とは
弁護士の倉重公太朗氏は言います。
本書執筆の目的、それは、労働法を取り巻く現状を理解してもらう方を一人でも多く増やしたいということです。
テーマとしては、
私たちはどう生きるべきなのか、企業はどうあるべきか、日本の雇用社会を取り巻く様々な問題について、労働法の視点から考えるのが本書のテーマです。
働くということはもちろん、あなたの人生の一部にすぎません。
しかしながら、
働くことを抜きにして、よりよい人生を送ることには無理があります。
働くということの価値観が変化しつつある今だからこそ、「働く」ルールである労働法を見つめ直す必要があると考えます。
- これから働きはじめる方
- 働き方に悩んでいる若手社員
- 人事関係者
本書の構成について
本書は全部で7つのパートから構成されており、巻末は対談となっています。
- 日本型雇用の「終わりのはじまり」
- 日本型雇用のひずみと崩壊
- 「働き方改革」ってなに?
- 脱「時間X数字」の働き方
- 解雇の金銭解決制度のススメ
- 「雇用改革のファンファーレ」4つの視点から
- 対談編
対談相手は全部で6名となり、著名な濱口桂一郎さんも名を連ねておられます。
極めて真っ当な意見
著者が述べているところは、労働問題を一定程度考えた人ならば、共感するであろう合理的な見解です。
しかしながら、短絡的で近視眼的な人たちならば、その言葉尻を捕らえて騒ぎ立てることでしょう。
なぜなら、意図的に「煽りの要素」も散りばめられているからです。
一部を紹介しますと、
- 正社員の特権が「非正規貧困化」の根本原因だ
- 「解雇しやすい社会」にすれば正社員は増える
- 「残業規制はむしろ迷惑」と考える人々の事情。
- スキルアップできず割を食うのは若者たちだ
- 「解雇の金銭解決」はブラック企業を撲滅する
これだけ見ると、待ってましたとばかりに浮足立つ人たちの姿が目に浮かぶような刺激的なラインナップです。
きわめて真っ当な意見であることは、本書をよく読めば、一目瞭然であると思われます。
例えば、
解雇について金銭的解決をルール化することに対して、条件反射的に反対する議論があります。
「金を払ったら辞めさすことができる制度など、もってのほか!」という主張です。
このような空論は現実を直視していません。
解雇は日常的に行われています。
その際、泣き寝入りに代表される金銭的補償がほとんどなされない「現実(日常)」から目を背けるべきではありません。
目の前で起きている現実を前進させるための合理的解決手段のひとつとして、法制化が示されているのです。
現行、雀の涙ほどの補償しか得られないのであれば、法律で一定程度の金銭補償を獲得できるほうが良いに決まっています。
金銭解決は、解雇後の転職をすでに決めている人にとっては単純なプラス以外のなにものでもありません。
弁護士をたてて、裁判所で争うハードルの高さと比較すれば、法制化による金銭補償は、時間と手間の省力化が図れます。
労働者の権利が弱体化するのではという懸念についても、解決金の水準設定の問題と考えられます。
水準を一定程度の高さに設定すれば、安易な首切りは経済的な損失と天秤にかけられ、抑止が効くはずでしょう。
「解雇規制はアリかナシか」という単純な議論をする段階からそろそろ脱却し、「どうやるのが合理的か」という実質的な議論を深化させていくべき段階であると考えるべきでしょう。
整理しますと、
- すでに転職を決めている人にとっては、単純にプラスでしかない
- 弁護士をつけて裁判所で戦うハードルが高いと感じている人には、むしろ金銭的保護になる
- 弁護士をつけて裁判をしたとしても、労働審判や和解で解決するのであれば同じ結論であり、むしろ簡易迅速化する
- 「あっせん」など、裁判外の手続きにより低額で解決している人にとって金額が増える
- 安易なクビはむしろ減る
- ブラック企業対策の最も効果的なものになる
違法があれば労働基準法の規制のように罰則があるとすると、違法なクビを連発している企業は生き残ることができなくなるのです。
雇用改革の4つの視点
過渡期を迎えている現代の日本型雇用が変革を避けられない時期に来ていることは間違いのないところです。
今後の雇用社会の方向性について、次の4つの視点から検討の必要があると著者は主張します。
- 雇用社会
- 法律・国家制度
- 企業
- 働く人
雇用社会
雇用の流動性を高めることが重要です。
これは転職の自由度を上げることにとどまらず、生活全般の選択の自由を可能にするものでもあります。
ライフステージに合わせて雇用・学び・家庭生活の行き来を自由にできる選択肢を増やすことが重要となります。
法律・国家制度
新しい時代の雇用社会の基盤となる、労働法のグランドデザインが必要となります。
まず最初に、労働法は誰を守るのかという再定義が必要でしょう。
働き方の多様化やデジタル社会の進展を見据えるならば、再定義は不可避です。
企業
同質的労働者(日本人・男性・フルタイム勤務・残業OK・転勤OK・家庭のことは配偶者任せ)のみでは、人口減少社会においては企業活動はもはや成立しないでしょう。
育児・介護・病気を抱える人・外国人等様々な事情を抱える多様な社員を採用していく必要があります。
働く人
どこの会社に勤めているか、どんな役職なのかが重要なのではなく、今後はどんなスキル・能力・経験があるかが重要である社会になっていくはずです。
ゆえに「個の力」をなににもまして磨き続けることが大事となります。
プロであることを常に問われる社会となるのでしょう。
その意味で、これからの雇用社会はある意味残酷な時代とも言えます。
新しい時代の雇用社会で求められる働く人のあり方を著者は次のように描いています。
自分の人生・働き方を自ら「選択」し、学び直し、家庭生活、趣味を含めて自律的なライフキャリアを過ごしていく
新しい時代を創っていくのは「働くあなた」なのです。