日本人の働き方が大転換するは今は昔なのか
本書はリクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏と産業ソーシャルワーカー協会代表の皆月みゆき氏の共著となります。
2017年に出版された本書は、現在進行形の働き方改革に関する早い段階における分析と提言のひとつに数えられます。
本書の目的は、働き方改革の時代の新しいマネジメントを読者とともに考えることにある。
彼らの問題意識は「マネジメント」にフォーカスされています。
明らかに職場は「新しいマネジメント」を求めている。そのことに多くのマネージャーはすでに気づいているが、残念ながら誰も教えてくれない。
ある意味、現在も「新しいマネジメント」は模索されていますし、マネージャーはトライアンドエラーを続けています。
答えは現場の数だけあります。
大波となった働き方改革が、働く人々を幸せにして、企業にも生産性向上という成果をもたらせるかどうか、それは現場のマネジメントにかかっている。
足元を見つめ直し、一から考えるときには、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。
- 現場を預かるマネージャー
- 働き方を見つめ直したい若手から中高年まで
- 勉強し直したい人事関係者
本書の構成について
本書は全部で9章から構成されています。
- 働き方改革の始動
- 働き方改革は人事改革X業務改革
- 働き方改革はマネジメントの進化を求める
- 業務効率を高める「ジョブアサイン」
- 多様な人材をありのままに活かす「インクルージョン」
- 個々の抱える問題に踏み込む
- すべてのマネージャーが直面する悩み
- さらなる多様化に向き合う
- ひとりで抱え込まない
ダイバーシティの5段階
働き方改革におけるキーワードであるダイバーシティ(多様性)について、本書では早稲田大学の谷口真美教授の概念を用いて紹介しています。
谷口氏の定義では、企業におけるダイバーシティの取り組みは次の5段階に分けられます。
ダイバーシティの5段階
- 抵抗
- 同化
- 多様性尊重
- 分離
- 統合
もう少し詳しく言うと
ダイバーシティの5段階
- 多様性に対して何ら取り組みを行わない状態
- 法律遵守の姿勢を示す防御的な状態
- 違いの存在は認めるがその活用までには至らない状態
- 違いをビジネスに活かすようになる状態。マイノリティとマジョリティを純粋培養的に育て、マイノリティ市場向けのサービス開発を行うような段階。
- 違いを全社的に活かすために、あえてマイノリティとマジョリティとを混合させて、それぞれの特性を組み合わせて事業に活かしている状態。
インクルージョンとは
インクルージョンとは、このような統合の段階を指します。
もともと福祉の分野から生まれた言葉です。
ソーシャル・インクルージョンというもので、「社会的包摂」と訳されます。
企業経営の文脈では、日本語訳せずにインクルージョンという言葉のままで、徐々にではあるが耳になじみはじめてきているようだ。ダイバーシティというよりもダイバーシティ&インクルージョンと呼ぶことが自然になり、推進組織を「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」とする企業が次々に出現してきた。
インクルージョン・マネジメント
働き方改革を完成させるのはインクルージョン・マネジメントだ。
多様性とは、価値観のカオス状態を意味します。
価値観の混沌は、基本的に二者択一の場面で顕著に現れるものです。
「全体と個人」「活躍と停滞」「競争と協調」「管理と自律」「量の拡大と質の進化」が職場では代表的な対立でしょう。
そのたびごとに、マネージャーは2つの価値観の狭間に追い込まれることになります。
進む方向は、
どちらか一方ではなく、どちらにも価値を置く。
相反している価値観のバランスを取るということは、互いの価値観を争うのではなく相互で認め合い補完することを指す。
実はこの発想に著者は「老荘思想」との類似性を指摘します。
老荘思想は魏晋南北朝時代の老子と荘子の思想を合わせた学説だ。南方中国の個人主義的傾向を反映した東洋の代表的思想でもある。
どちらも否定しきれない2つの価値観の調和を考えるこのような態度こそ、インクルージョンの考え方そのものです。
中国の老荘思想にインクルージョンの考え方は極めて近いことを指摘し、老荘思想は日本人の思考形成に大きな影響を与え、私たちにとてもなじみの深いものであると説明を続けます。
すなわち、
インクルージョンの考え方は日本人にとって、とても「自然」であるという結論を提示するのです。
他に荘子が説く「両行」という考え方がある。唯一・絶対的な価値を信じるのではなく様々な思想や価値観を認め、いずれの存在があることも当然とする考えだ。これも多様性を認めるということに他ならない。
個人を十全に活かす方向こそが、マネージャーの目指すべき方向なのでしょう。