実は誤解だらけであるマタニティ問題
小酒部さやか氏は言います。
私には、多くの人たちに知ってもらいたいことがたくさんある。マタハラ問題について、伝えたいことがたくさんある。難しい問題だということは、よくわかっている。けれど、だからこそ多くの人たちと、一緒にこの問題について考えてもらいたいと思う。考えてもらう「きっかけ」になればと、この本を書き始めることにした。
世間一般的には、マタハラは「妊娠する女性だけの限定的な問題」と理解されています。
それは、きわめて表層的な問いの立て方であり、間違った答えにたどりついてしまいます。
マタハラは、人権問題であるだけでなく、労働問題であり、ひいては経済問題かつ経営問題であると巨視的な視点を著者は提示します。
経済問題ということは経営問題でもあり、企業が向き合わなければならない問題なのだ。
- 経営層
- 人事部門
- 現場を預かるマネージャー
本書の構成について
本書は全部で5章から構成されています。
- 私のマタハラ体験
- 「マタハラ問題」のすべて
- こんなにある!マタハラの実態
- 私たちになにができるか
- マタハラ解決が日本を救う
第二章において、12の具体的な実例が紹介されています。
マタハラの定義
マタハラとは、マタニティハラスメントの略です。
- 働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けること
- 妊娠・出産・育児などを理由とした解雇や雇止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いを受けること
被害を受ける女性にそもそも落ち度があったのだろうといった被害者バッシングがたびたび起こります。
そのような職場は、もともと潜在的に問題があり、それが女性従業員の妊娠をきっかけにして、形をとって現れるのでしょう。
マタハラの4つの類型
- いじめ型
- 昭和の価値観押しつけ型(粘土層管理職)
- 追い出し型
- パワハラ型
いじめ型
悪意ある個人型です。
妊娠や出産で休んだ分の業務をカバーさせられる同僚の怒りの矛先が会社ではなく労働者に向いてしまいます。
不平不満は会社の組織運営体制に向けられるべきであり、とんだ筋違いです。
昭和の価値観押しつけ型(粘土層管理職)
悪意のない個人型です。
性別による役割分業にこだわる固定観念が強すぎ、そのために世代による価値観の相違を全く理解できないパターンとなります。
悪意はないのですが、だからいいというわけには全くいきません。
追い出し型
労働の排除を目的とした組織型です。
一番わかりやすいマタハラです。
ほとんどの女性が泣き寝入りするパターンとなります。
パワハラ型
労働の強制を目的とした組織型です。
妊娠や育児を理由に休んだり早く帰ったりすることを許さない職場風土です。
人員の慢性的な不足が根底にあると思われます。
他人に対する創造力を欠いたメンバーにより職場が構成されているので、妊娠以前より働き辛い環境であろうことが想像されます。
マタハラの加害者は誰か?
「マタハラ白書」には次のようなデータがあります。
- マタハラの加害者で一番多いのは、直属の男性上司であり、50%以上となります。
- 同僚においては、女性の方が2倍以上、多いそうです。
パワハラは上司から、セクハラは異性からという傾向が強いですが、マタハラの場合、上司・同僚を問わず、また異性・同性を問わず、四方八方が加害者となることが統計上、読み取れます。
非常に根深いものがあります。
労働環境を見直す
組織型のマタハラと同じくらい個人型のマタハラについても、日ごろから注意を払う必要があります。
妊娠や出産に対する待遇や処遇について、不公平感を持ち、自分は損をしているという価値観を抱く職場の同僚は、男女を問わず後を絶ちません。
そのような不平不満は個人的なひがみから来るものであるのですが、不平不満の内容には一理ある部分も否定はできません。
抜けた穴をフォローしなければならない負荷や負担は事実としてあります。
不在となる女性従業員が優秀であるのならば、尚更でしょう。
このような業務的な負荷や負担は本来的には、企業サイドが組織的に取り組むべきマターです。
それは、評価制度であったり、休暇制度の見直しを迫ることでしょう。
産休・育休で抜けたぶんの業務をフォローする上司、同僚の評価制度の改善や、カバー分の対価の見直し、また結婚・妊娠の選択をしない人にも長期の休暇がとれる制度の導入などを取り入れることを合わせて行ってほしい。
マタハラ問題の解決へ向けての取り組みが、とりもなおさず、職場で働く全従業員の労働環境への見直しにつながっていることを、人事や経営層は、よくよく理解しなければならないのでしょう。