労働法の再設計に挑む
大内伸哉氏は言います。
本書の特徴は、企業が、良き経営をするために、従業員に対してどのような義務を果たすべきかというテーマに徹底してこだわったことである。そのため、厳密な意味での法的な義務だけでなく、結果として、企業の社会的責任(CSR)などの企業倫理の分野にまで入り込んでいる。
これとは別にもう一つ特徴があります。
もう一つの本書の特徴は、法の理念を、企業が就業規則に落とし込むことの重要性にこだわったことである。
著者は、来るべき労働法の大変革を予感しながら、消えゆく旧来の労働法へのレクイエムとして本書を位置付けています。
大内さんの視点を参照しながら、今一度労働法を俯瞰的に眺めてみるときなのかもしれません。
- 労働法に関心のある方
- 人事部
本書の構成について
本書は全部で10章から構成されています。
- 人事労働法とは何か
- 人格的利益の保護
- 採用と労働契約
- 労働契約上の義務
- 人事
- 評価と報酬
- ワーク・ライフ・バランス
- 退職
- 労使関係
- 終・序論 デジタル変革後の労働法
これらに加え、補説として「標準就業規則に組み入れるデフォルト条項について」の解説もあります。
人事労働法とは
一般的な(これまでの)労働法は、労働者弱者論と企業強者論を基本原理とした、伝統的労働法であると著者は位置づけます。
その一方で、
従来のドグマテッシュな企業像や労働者像を捨てて、様々な利害関係で構成される企業が良き経営をし、企業・従業員双方にとってウィン・ウィンの関係を築けるようにすることを目的とするのが、人事労働法であると大内さんは主張します。
納得規範とは
円滑な人事管理の実施運営においては、従業員に対して誠実説明を行い、納得同意を得ることが必要です。
このような一連のプロセスを著者は納得規範と呼びます。
納得規範は、企業が労働法の理念を尊重した「良き経営」をするよう導くことを目的とする人事労働法の根本規範である。労契法上の合意原則も、納得規範によって補完されるものでなければならない。
労使自治の尊重
労使自治というと、これまで労働者側の担い手としては労働組合が真っ先に想起されることでしょう。
しかしながら、労働組合の組織化の実態は一部の大企業に偏在しているばかりであり、組織化が図られていない企業の方が圧倒的に多い現実があります。
人事労働法は、労使自治の労働者側の担い手が労働者個人とならざるを得ない現状を前提にし、個人の納得同意を重視することにより、労働法の理念を浸透できるような法解釈や立法を目指す立場に立っています。
労使自治の尊重は、時代遅れとなっているかもしれない法規制を、弾力化して、より適切な規範内容に再生させる手法にもなるのである。