組織の社会性の安定を目指して
まえがきには次のように書かれています。
本書は、どのような人の職業的使命感が高く、どのような人の職業的違反行為が低いかについて、職種、職位、組織内市民行動、組織風土などの観点から分析することによって、職業的使命感を高める方略を探ろうとする立場で書いたものである。
職場において、自分の貢献と責任を内面化したときに、それが職業的使命感となります。
職業的使命感の最も高揚した形は、ノブレス・オブリジェ(高邁な義務感)と呼ばれるものです。
働きがいの創出と職場における違反行為の予防を視野におさめながら、職位、職種を見直す視座を本書の論考は与えてくれることでしょう。
- 職場環境の改善に取り組んでいる方
- 現場のマネージャー
- 人事部
本書の構成について
本書は全部で7つのパートから構成されています。
- 社会技術としての職業的使命感研究
- 職業威信の先行研究
- 消防という仕事と調査の概要
- 予防的分析
- 職種・職位と職業的自尊心
- 属人的風土と職業的自尊心
- 職業的使命感と社会技術
職業威信
職業威信とは、ある職業の「良さ」「望ましさ」という意味で社会的に広くとらえられているものです。
職業威信が高いとは、ある職業が人々から名誉を受け、敬意をもたれ、その結果として社会的な影響力をもっていることを意味します。
たとえば、弁護士や医者などがあげられるでしょう。
職業威信は、社会の側に厳然と存在するものであり、きわめて安定し、固定した職業に対する格付けの意識であった。
職業威信の二つの様相
次の2つの様相があります。
- 客観的な職業威信
- 主観的な職業威信
客観的な職業威信
社会階層と密接な関連のあるきわめて安定的・固定的な客観的な構造としての職業威信を示します。
主観的な職業威信
客観的な職業威信と関連しながらも、概念上は独立に想定しうるもので、その職業が本来果たすべき職責・使命・職務といったものとの関連で定義することができます。
つまり、個々人が自らの職業に対して感じる思い入れ、「誇り」といった意識として定義することができるものなのです。
主観的な職業威信の独立性
この主観的な職業威信の独立性こそが、どんな個人も自らの職業に対して誇りを感じることを可能にする。
客観的にみてどれほど低い威信の職業であっても、個人は自らの職業の使命との関わりにおいて「誇り」を感じることができます。
その逆に、
どれほど高い威信の職業であっても、自らの職業を蔑ろにし、職業倫理を欠くようなことがあれば、それは「誇り」高く職業を全うしているとは言えないでしょう。
この主観的な職業威信が客観的な社会経済的な構造とは独立して想定できるということこそが、実際の職業行動にまつわる問題を考える際にきわめて有益な視点を提供するのである。
この独立性こそが、組織的不正に対応する最後の砦であると言えます。
組織人は組織に属してはいるが、その使命感は個人に帰属しなければならないのでしょう。
自らの職業に対する「誇り」といった考え方が、今よりももっと大切な概念として世間に受け止められれば、未然に防げるさまざまな不正や社会問題があると信じる。
これからの時代、組織を構成する個人が組織的犯罪の抑止として機能しなければならず、そのような組織的健全性を目指すべきなのでしょう。