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小説「孤狼の血」悪徳警官の陽の当たらない正義とはなにか

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信念を貫く男たちの生き様を描いた圧巻の警察小説は期待通りの傑作でした

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2018年5月2日よりロードショーが始まっている東映映画「孤狼の血」の原作を読み終わりました。

パドー

クライムノベルは好物。

アウトローものは王道中の王道ですよね。

第69回日本推理作家協会賞受賞作でもあります。

先に映画をみるか、原作を読むか、迷いましたが、アマゾンをポチるのが手っ取り早かったので、原作へ走りました。

ということで、近々に、映画館へと足を運ぶつもりです。

著者が女性であることから、女性であるにもかかわらずであるとか、時代考証がしっかりしているだとか、見当違いや些少な部分を評価している意見がネットで散見されます。

が、本作の凄みはそのようなところには全くありません。

本作が傑作であるゆえんは、そのリーダビリティの高さにあります。

個々のエピソードの魅力とエピソードの的確な配置により、極めてナチュラルに物語が推進していく様にあなたは当然のように目をみはることでしょう。

以下、内容に言及しますので、未読の方はご注意願います。

あらすじは次のとおりです

角川書店公式サイトから以下引用します。

昭和63年広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。

昭和の終わりの広島が舞台となります。

作者が公言しているように、本小説は「仁義なき戦い」に大きく影響を受けています。

悪徳警官対暴力団という構図でいえば、同系列の「県警対組織暴力」に近いといえます。

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この小説の構成は?

新人刑事の日岡の視点を巧みに織り交ぜながら物語は進行していきます。

やり手と呼ばれる悪徳刑事と部下の新人とがコンビを組み、事件解決に向かうというのはおなじみのパターンとなります。

このようなパターンでの傑作といえば、ただちに「トレーニング・デイ」が思い出されるでしょう。

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各章のはじめに、日岡のつけている日誌が目次的役割をもって記されています。

これからどのような出来事が起こるのかが記されているために、興ざめの部分がなきにしにもあらずです。

パドー

わたしは、あえて読み飛ばしました。

主人公の刑事大上(おおがみ)という名前は狼(おおかみ)を連想させます。

陽の当たらない正義

この小説を構成する組織・集団は次の4つのカテゴリーに区分することができます。

組織・集団である限りは、目的を持ち、目的を遂行するための手段が一般化されているものです。

目的と手段を軸にして区分してみましょう。

  1. 警察機構(合法的目的を合法的手段で実現する)
  2. 刑事大上(合法的目的を非合法的手段で実現する)
  3. 腐敗した警察上層部(非合法的目的を合法的手段で実現する)
  4. ヤクザ世界(非合法的目的を非合法的手段で実現する)

1と2の目的とは、犯人逮捕つまり社会的正義の実現です。

3と4の目的とは、組織集団の権勢の維持拡大となります。

裏金作りや不都合の隠蔽に代表される腐敗した警察上層部の非合法的目的があくまで合法的手段にて実行されていることは、ある意味、救いのない正義の堕落といいえます。

正しい結果を導くために正しいプロセスを経ることは、陽のあたる正義の実現です。

その実現は、現実社会の制約から容易には達成できない場合が多々あります。

実を取るために、大上は法を踏み越えます。

正しい結果を導くために正しくないプロセスをあえて選ぶのです。

これが、陽の当たらない正義です。

ここでいう「目的と手段」は、ある意味、「法と掟」と言い換えることができると思います。法と掟に関する優れた考察に宮崎学氏の著作があります。

大上の正義とはなにか?

大上が実現しようとする正義はもちろん悪の一掃ではありません。

彼は、悪はなくならないとの認識を強く持っています。

彼が首を突っ込まざるを得ない世界はいわゆる「義理」で出来上がった世界です。

義理とは次の2つ(義と理)から成り立っています。

  1. 義・・・恩を忘れない
  2. 理・・・秩序を守る

大上の正義はこのような「義理」の世界で実現されるべきものです。

彼の正義とは、バランスの保持(秩序の堅持)にほかなりません。

バランスの保持とは、裏の世界が表の世界に染み出してこないように門戸を固めるということです。

具体的に言うと、一般人の血が流れないこととなります。

そのためには、法律が邪魔な場合は、躊躇なく大上は法律を蹴散らすのです。

ヤクザ世界の原理原則であるバランス=天秤について興味のある方は、優れたクライムノベルの書き手である黒川博行氏の著作にあたってみてください。

孤狼の血は受け継がれていく

小説の後半に孤狼=大上は絶命します。

陽の当たらない正義の末路は陽が当たらないがゆえに、死にゆくより他に道は無いのでしょうか。

あたかも、それにより秩序が保たれるかのように、無情な沈黙だけがただただ残ります。

バランスがはかられるためには、命が差し出されなければならなかったかのようです。

孤狼の血は、実は広島県警の監察官の「犬」であった日岡に受け継がれます。

大上の内偵を進めるために異動してきた日岡は最後の最後、犬から狼に変わることを決意します。

悪徳警官が主人公で、悪が継承される構図は「その男、凶暴につき」と同型であるいいえます。「その男」の公開が1989年であり、本作の設定が昭和63年=1988年であることは偶然ではありません。時代背景・社会状況として、大きな正義が力をなくし、正義の相対化が始まった時期であることがひとつの理由であると思われます。

続編はすでに出版されています。非常に楽しみです。

おそらく、スピンオフもこれからたくさん書かれるはずです。

2018年6月3日追記

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続編の「凶犬の眼」を読み終えました。

上質のエンターテイメントでした。

大上亡き後、クオリティーを保てるのかどうか心配でしたが、杞憂でした。

受け継がれていました。

狼の血は。

展開はこれまでより更に義理の世界を純化しています。

フィクションならではの極北。

パドー

読んで損のない一冊。

ぜひご賞味ください。

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✒︎ writer (書き手)

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本サイト「シンキング・パドー」の管理人、人事屋パドーです。
非常に感銘を受けた・印象鮮烈・これは敵わないという作品製品についてのコメントが大半となります。感覚や感情を可能な限り分析・説明的に文字に変換することを目指しています。
書くという行為それ自体が私にとっての「考える」であり、その過程において新たな「発見」があればいいなと毎度願っております。

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