マンガ「刻刻」、理屈でできた恐怖はあなたの時間だけを止めてしまう

投稿日:2017-02-27 更新日:

 

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堀尾省太氏の「ゴールデンゴールド」があまりに素晴らしかったので、デビュー作を訪ねることにしました。

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はい、「刻刻」

言わずと知れた衝撃のデビュー作です。

全8巻を大人買い一気読みし、目眩がしている。

ロジカルスリラーは、やはり体に悪い。

正確に言い直すと、心地よい。

以下、内容に言及しておりますので、あらかじめご了承ください。

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時間を止める

本作は、時間を止める「止界術」を操る一族とその一族のもとにある「止界術の石」を略奪しようとする宗教団体との戦いが描かれています。

止界術により時間が止まった世界は「止界」と呼ばれ、止界において止まっている者は「止者」と呼ばれる。

これは容易に死界および死者を連想させる。

時間が進む我々の世界が「生者の世界」であるならば、時が止まった状態にある世界はある意味、「死者の世界」であろう。

管理人

止界において止者を殺そうとする者の激しい殺意に感応するかのように、異形が突然に出現し、その異形は止界術により止界内を自由に行動できるものの命を一瞬にして奪ってしまう。

「止界術」を操る一族はその異形を「管理人」と呼ぶ。

この管理人というネーミングは、本当に秀逸だなと感心してしまった。

というのも、次のような理由からです。

死者の世界において、そのものを殺すことはできません。

なぜなら、もうすでに死んでしまっているのだから。

論理的に矛盾をきたします。

ゆえに、その世界における論理を破綻させないために、「管理人」はその行為を阻止するのです。

世界の理(ことわり)を取り仕切っている存在なのだ。

ゆえに、管理人と呼ばれるのであろう。

ふむふむ。

論理的恐怖

この物語は、このように徹頭徹尾理路が整然としています。

稚拙なほころびもなく、とはいうものの理屈ばかりが全面に出る説教臭さもなく、エンターテイメントとして高次に成立しているところが出色といいえます。

なによりも、止界術を手にしながら、安直にそれによって私腹を肥やすとか悪戯をするという幼稚性を禁じ、あらかじめ物語の外に排除しているその姿勢が素晴らしいです。

本作に見られる論理的恐怖に似た手触りは、たとえばスピルバーグの「マイノリティ・リポート」やいがらしみきお氏の「Sink」あたりでしょうか。

とりわけ、芥川龍之介の認識との親近性を感じずにいられません。

機会がれば、彼の掌編「彼、第二」を読んでみてください。

論理的恐怖が横溢しています。

理詰めの恐怖というのは、ともすれば過剰な閉塞感を伴いますが、本作にはむしろ開放的な風が吹いています。

主人公は、合理的な帰結である絶望的な孤独をすすんで引き受けますが、最後には合理的な解決が恩寵のように彼女のもとを訪れます。

敵対する教祖が転生し、赤ん坊として再びこの世に生まれ落ちるのですが、その男の子は最後まで名前で呼ばれることはありません。

なぜなら、生まれ変わりである限り、もうすでに名は与えられているからです。

このような徹底性に作者の知的配慮を感じざるを得ません。

物語の力

何より素晴らしいのは、この物語のエンディングです。

拍子抜けしたとの意見や批評も目にしましたが、わたしはそうは思いません。

おどろおどろしい物語を、軟着陸させ、アットホームでもセンチメンタルでもない結末に持っていく尋常でない力に素直に驚嘆すべきなのでしょう。

すごい作家が出てきたものです。

水たまりの一滴

惜しむらくば、潮見の後日談を描いてほしかったです。

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