注目の裁判
人事関連業務に携わる者にとって注目の裁判結果が今週出されました。
本日は、そのとについて少しばかり触れます。
長澤運輸事件
定年後に再雇用されたトラック運転手が、再雇用前後において仕事内容が同じであるにもかかわらず、賃金が下がることは不当であると訴えていた裁判の控訴判決が、今週東京高裁にて言い渡されました。
一審の東京地裁は、今春、原告の訴えを認める判決を出していましたが、二審の東京高裁は、一審判決を取り消し、原告の請求を棄却する結論を出しました。
原告側は上告の意向を示しており、三審の最高裁にて結論が出る模様です。
注目の裁判
この春の一審判決を多くの人事関係者は重く受け止めたことでしょう。
なぜなら、再雇用施策の抜本的な見直しを迫られることになったからです。
再雇用後に賃金が下がる労働条件にて、再雇用契約を行うことが広く労働者の間で共有されていた前提を前提とできなくなるからです。
これにより、総人件費管理の再検討、すなわち賃金制度の再設計を避けて通ることが難しくなりました。
これが、一筋縄ではいかない問題であることは、人事関連に携わっていない人たちにも容易に想像できるはずです。
同一労働、同一賃金問題
「仕事の内容が同じなのだから、雇用の形態が変更されたからといって、賃下げが行われることは合理性に欠け、納得がいかない。」
提訴の正確な内容を把握しているわけではないですが、提訴の根拠はこの主旨とそれほどかけ離れてはいないと推測します。
今回の争点であるトラックの運転は極めて職務性の高い仕事内容です。
仕事内容にて賃金が決定される職務給という考え方を前提にし、一審判決が下された可能性が高いと思われます。
二審判決は、定年前と比較し、一定程度減額されることは、一般的であり社会的に容認されているとの考え方を考慮し、結論を出したものと考えられます。
これは、社会慣習をある程度斟酌すべきであるという思想に加え、我が国の賃金に対する考え方は、職務給として支払われているのではなく、職能給として支払われている実態も無視できない。
そのような見解に基づく結論であると言えないでしょうか。
職能給とは能力に応じて支払われる賃金のことですが、定義上、年数を経るに従いスキルはアップし、能力も開発されていくとの考えであるので、年功序列的な給与支給に結びつきやすくなっています。
国内企業の大部分が職能給の支給を行っており、役割給や職務給はやはり少数派です。
職務給なのか職能給なのか
本件の争点は次のところにあると思われます。
極めて職務性の高いトラックの運転について、正社員雇用のときに賃金制度上、その賃金が職務給として支給されていたのか、職能給として支給されていたのか、ここがポイントです。
どちらの前提にたって支給されていたのかで、やはり違ってくると思われます。
おそらく、職能給として支給されていた可能性が高いと思われますが、職能給として支給されていた賃金を無条件に職務給として補償すべきであるとする主張は、やはり熟慮が必要であると思われます。
ここは、本当に難しい。
今後への影響
最高裁判決が仮に一審を指示した場合、今後、人事制度の見直しを多くの企業が余儀なくされると思われます。
生涯年収の再設計に基づく賃金制度の再構築は必至です。
定年再雇用制度から65歳定年制への移行検討も活発化することでしょう。
組織運営維持のための人事制度の見直しが必要となるかもしれません。
取り組むべき課題が一気に吹きだしますが、企業はいままで以上に正面から向きあっていかなければならないでしょう。