人材確保 X 生産性 X 企業成長
伝説のアナリストであるデービッド・アトキンソン氏は言います。
本書の最大の目的は、日本企業のあるべき姿を見極め、日本経済の新しい時代をつくることに役立つ提言を行うことです。
先進国の中で第二位の貧困大国になり下がった日本経済凋落の元凶のうちのひとつに、生産性の低さがあげられます。
著者は次のように分析します。
簡単に言えば、日本では経済合理性の低い産業構造のまま、規模の小さい企業に労働者が大量に分配されてしまっています。だから、せっかく能力の高い人材が豊富にいるにもかかわらず、彼らの力が有効に活用されることなく、多くがムダにされているのです。
日本企業は今なお、人口が増加していた時代にできた制度に過剰適応していると言えます。
人口減少時代に転じた現在、根本的な変革が強く求められていることは誰の目にも明らかでしょう。
企業が進むべき道を見極めるためには、冷静で客観的な分析が不可欠であるはずです。
思い込みを排除し、日本では常識と言われていることも、根拠を探して、データを分析し、検証していきます。
- 企業経営者
- マネージャー
本書の構成について
本書は全部で8章から構成されています。
- 実力はあるのに「結果」が出せない日本企業
- 「沈みゆく先進国」の企業には共通の課題がある
- 日本企業の生産性が低いのは、規模が小さすぎるからだ
- 「中小企業を守る」政策が日本企業の首を絞めている
- 「低すぎる最低賃金」が企業の競争を歪めている
- 日本の「経営者の質」が低いのは制度の弊害だ
- 人口減少で「企業の優遇政策」は激変する
- 人口減少時代の日本企業の勝算
生産性を決める5つの要素
次の5つとなります。
- 総人口に占める生産年齢人口の比率
- 生産年齢人口の就業率(労働参加率)
- 企業の平均規模
- 輸出率
- イノベーション
労働生産性を高める
上記の(1)と(2)は国全体の生産性に影響します。
(1)は低下傾向にあり、(2)は徐々に高水準に近付いている現状となります。
残りは、主に労働生産性に影響を与えるものです。
このような状況なので、生産性向上のために残されている手段は1つしかありません。それは「労働生産性を高めること」で、これこそが日本の課題です。
経済学の大原則から著者は次の結論を導き出します。
労働生産性を決めるもっとも重要な要素は「企業の平均社員数」だということです。企業の規模が大きくなればなるほど、労働生産性が高くなるからです。
著者が、中小企業の多さを常に問題視するのは、中小企業の生産性が低いからにほかありません。
中小企業の果たす役割
すべての大企業は、中小企業として出発し、中堅企業を経て、大企業となる過程をたどります。
ゆえに、その存在については通過点としての意義は広く認められるところです。
そのほかにも、イノベーションを起こす中小企業は一定数あり、既存の大企業に刺激を与え、経済全体を活性化する役割を大いに担ってもいます。
しかしながら、イノベーションを起こせる中小企業はほんの一握りでしかないこともまた事実です。
中小企業の多くは最先端技術などを使いこなせるだけの規模がないので、人力に依存する傾向が強いままです。
人口が増加傾向にある時代は、その存在はある程度の社会的意義を実現していました。
けれども、人口減少時代には、むしろ活性化を阻害する存在であると著者は断定します。
こういう中小企業も人口が増加している時代には貴重な存在でしたが、無駄にたくさんの人を雇うので、現在のような労働生産性の向上が求められる時代では、特に小規模事業者は邪魔な存在でしかないのです。
生産性を左右する4つの条件
効率のよい産業構造を持つ国には次の4つの特徴(条件)があります。
- 大企業にだけ規制を厳しくするようなことはしない
- 中小企業の規模を大きく定義している
- 中小企業を優遇する政策が限定的である
- 最低賃金が相対的に高い
(4)以外の特徴を持っている国の典型がアメリカ合衆国となります。
産業構造が非効率になる国の特徴
先の4つの特徴(条件)の逆さまとなります。
- 中小企業の定義が非常に小さい
- 中小企業に対する優遇策がきわめて手厚い
- 中小企業以外の企業に対し、厳しい規制が存在する
- 最低賃金が低い(もしくは最低賃金の規制がない)
これらの特徴を持つ国の典型が、スペイン・イタリア・ギリシャ・韓国・日本なのです。
これから応援すべき企業とは
人口減少・高齢化が進行するこれからの社会において、国が応援するべき企業の特徴を著者は次のように挙げます。
- イノベーションを起こす企業
- 最先端技術の普及に寄与する企業
- ベンチャーにかぎらず成長している企業
- 輸出をする企業
- 研究開発に熱心な企業
- 中堅企業
こういう企業には共通した特徴が隠されています。それは、良質な雇用を提供し、賃金水準が比較的高いことです。賃金水準の高い企業には、輸出も多く、研究開発も盛んな企業が多いです。
地獄の時代の到来なのか
これからの時代は中小企業の経営者にとって地獄のような時代になることが予想されます。それは、人口減少によるマイナスの影響が、中小企業を集中攻撃するからです。
将来の日本経済の構造について著者は次のような考えを持っています。
人口が減少することによって、日本の産業構造はドイツと同じように大企業と中堅企業に集約されていくと、私は考えています。要するに、これからの時代は、規模の拡大ができるかどうかが勝ち抜く最大のポイントとなるのです。