リーダー育成とビジネス変革の二兎を追う時代に突入しているのです
本書は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのバイスプレジデントである白川克氏が書かれた変革プロジェクトのための基本書となります。
この本では私たちケンブリッジが実際の経験の中からブラッシュアップしてきた「育つ変革プロジェクト」という方法論を解説する。
簡単に言うと、
「育つ変革プロジェクト」とは、プロジェクトのやり方は教えるので、皆さん(顧客)の力を最大限使ってやっていきましょうというスタイルを指します。
顧客が前面に立って主体的に取り組むので、ノウハウを学び、コンサルティングのリピートが必然的になくなった会社もあったそうです。
コンサルティング会社に依存し、コンサルティング会社なしでは変革できない会社になってしまうよりは、組織としてずっと健全なことだと思う。
能動的にプロジェクトを引っ張っていくためには、リーダーシップが常に要求されます。
リーダーシップについて、
強烈な個性が有無を言わせず組織を引っ張っていくといった一般的な発揮の仕方を著者は求めてはいません。
そうではなく、
リーダーシップとは、リーダーだけが発揮すればよいものではない
という立場を本書はとります。
つまり、
局地戦でのリーダーシップを求めているのです。
「局地戦での」というと、とたんに小粒なリーダーという雰囲気が漂ってくるが、それでいい。
あるテーマに関わったときに、組織の壁だろうが、旧来の習慣が邪魔しようが、おかまいなく乗り越えていき、ビジネスと組織の変革をやり通せる人材が局地戦(特定の分野・限定的なフェーズ)でのリーダーシップを持っていると定義づけするのです。
最初から最後まで一貫して全体をみるのではなく、任されたパートをなにがあっても完遂する、そのような人間が次から次につながっていくイメージが近いでしょう。
頭一つ抜けた視点からプロジェクト遂行を考えるときに本書は大いに役立つヒントが満載です。
- 実際にプロジェクトを引っ張っている人
- 部下を育てたい上司
- 経営者
- 育成部門の担当者
- 変革プロジェクトを通して成長したい人
本書の構成について
本書は、全部で4部から構成されています。
- 育つ変革プロジェクトとは何か?
- 育つ変革プロジェクトのつくり方
- 走りながら育てる
- 組織全体で学ぶ
実際のケーススタディが豊富に例示されていて、とてもわかりやすいです。
リーダーシップを育む良質な修羅場
著者は変革プロジェクトこそが「良質な修羅場」であると言います。
「良質な修羅場」とは、ビジネスパーソンが一皮むけた経験のことを指します。言い換えれば、その人のキャリアポイントのことです。
なぜなら、次のような3つの特徴を持っているために、変革プロジェクト=良質な修羅場と言えるのです。
- やったことのない新しい取り組み
- ゴール、予算、期限が明確
- 混成部隊で取り組む
もう少し詳しく言うと、
- 前例がないことに手探りでチャレンジする経験ができる
- 限られた資源をどこに投入すべきかという戦略思考が必要となる
- かなりの権限が委譲され、自分の裁量で判断を下す訓練を積める
- 成功と失敗がハッキリするので、ノウハウを溜めたり反省したりできる
- マーケティングと製造、営業とコンプライアンスなど、相反する組織をまたいだ意思決定が必要
- 混成部隊をまとめ、一つの方向に向かわせる
通常は、事業部長クラスまで昇進しないと直面しないような苦悩ややりがいが経験できるのが、変革プロジェクトのリーダーなのです。
育つ変革プロジェクトの10の原則とは
次の10個になります。
- オーナーシップ
- チャレンジ
- オピニオン
- ファシリテーション
- プロセス
- オープン
- トライアル
- ピース
- フィードバック
- レスポンスビリティ&ハブ ファン!
オーナーシップ
リーダーシップを発揮すべき「自分の担当領域」を全メンバーが持つ
チャレンジ
プロジェクトも個人も、はじめてのことに取り組む
オピニオン
「オレはこう思う、こうしたい」の表明から始める
ファシリテーション
他人の意見を引き出し、整理し、合意し、推進する
プロセス
正解を知っていることよりも、前に進めるプロセス構築力を重視する
オープン
情報を開示することが、助け合うことの第一歩
トライアル
まず試し、失敗して学ぶ
ピース
オピニオン、オープン、トライアルの基盤は心理的安全性の確保
フィードバック
「こう見えるよ」を贈り合い、自ら振り返る
レスポンスビリティ&ハブ ファン(HAVE FUN)!
「必ずやり遂げる責任感」と「楽しいからもっとやる」の両立
以上が、育つ変革プロジェクトが大切にしている10の原則である。これは「仕事を通じて人が育つための10の原則」と言い換えてもよい。
熱いチームを作るためにやるべきこと
プロジェクトを立ち上げる際には、通常キックオフ(ミーティング)を行うのが一般的です。
そこでは、通常プロジェクトの主旨や今後の進め方の説明が行われます。
著者は、それだけではなく、もうひつとのミーティングを別に行うべきだと言います。
それが、ノーミング(Norming)セッションと呼んでいるものです。
このセッションは2つの重要な機能を持ちます。
- チームビルディング
- 学ぶ姿勢のセット
ノーミングの典型的な進め方は次の通りです。
「学ぶ姿勢のセット」とは、プロジェクトゴールには組織と個人の成長が含まれていることを理解させる働き掛けです。
日本のビジネスパーソンは本当に真面目なので、「学べ」と社命が下れば学ぶ。
社命として宣言することがとても重要となります。
しかしながら、
宣言の仕方にも一工夫が必要です。
次の2つのポイントを明確にする必要があります。
- このプロジェクトでは、普段やっている仕事のやり方とは別の方法でやるので、めいっぱい盗むこと
- 手探りで進まざるを得ないのがプロジェクト。仕事のやり方も絶対的な正解はない。どう進めたらよいのかを議論しながら進めましょう。[/list]
メンバーに当事者意識を植え付けることが何よりも大切です。
これに加えて、
一人一人に対して次のことを伝えましょう。
- 担当する仕事の難しさ
- それに対して足りていないこと
- 学んでほしいこと
最強の振り返り、サンセットミーティングとは
育つ変革プロジェクトにおいては、プロジェクトの節目ごとに振り返りの場である「サンセットミーティング」を設けます。
このミーティングにはプロジェクトを健全なものにするための3つの効果があります。
- 方向性のズレを補正する
- 組織として学ぶ
- 相互にフィードバックし合う機会となる
サンセットミーティングの典型的な進め方は次の通りとなります。
社会人になると褒められる場面が少ないので、ミーティングを通じて自己肯定感が高まります。
育つ環境をつくる
企業の成長は、組織の成長、すなわち個人の成長に大きく左右されます。
個人の成長を促す機会を適切に提供できる企業は強いです。
強ければ、市場で生き残る可能性が高まります。
強ければ、企業発展の可能性が高まります。
「変革プロジェクト」を最大限に活かしきるために、本書は格別の気づきをあなたにもたらしてくれるものと思います。