人の行為に注目すればあるべきデザインが見えてくる
ハーズ実験デザイン研究所代表の村田智明氏は言います。
本書の目的は、どんな領域で働く方でも、読み終わって本を閉じた後に「行為のデザイン」を実践し、課題を解決できることです。そのための手順をできるだけ詳細に解説し、できるだけ多くのジャンルから事例を集めました。
本書のタイトルにある「バグ」とは、
行為が阻まれる事象を指します。
本書のタイトル「バグトリデザイン」とは、
人の行為を観察したり、想像体験したりして、このバグを見つけ出し、解消する(=取る)デザインを考えることを意味します。
「行為のデザイン」とは、
改善点を見つけて、より良く、動作を美しくしていこうとする手法です。
ユーザーが目的に到達するための行為を滞りなく、なめらかに進行できるデザインを「良いデザイン」と定義し、最終目標として、ここを目指しています。
- 実践に結び付くデザイン思考を学びたい方
- プロダクトデザインに興味のある方
- デザイン思考を自らの業務に落としこみたい方
本書の構成について
本書は全部で8つのパートから構成されています。
- 人の行為にはバグがある
- どこにでもバグは存在する
- 6つのバグとその定義
- 6つの原因とその因子の定義
- 「行為のデザイン」ワークショップ事例
- ワークショップをうまく進めるコツ
- ソリューションに欠かせない裏技
- イノベーションのカタチはのこぎり型
人の行動に根ざしたデザイン思考は近年注目が増え、関連書籍がたくさん出ています。しかし私は、実践するための核の部分はまだブラックボックスのまま、という印象を拭えません。
行為のデザインにおいて念頭に置くべき2つのポイント
- 時間の流れの中に、本当に美しい所作がある
- ユーザーの行為の時間軸にそって「あるべき姿」を見つける
モノ単体の美しさだけでモノの良し悪しを評価するのは不十分です。
置かれているモノは人が生活している動的な時間とは別のところにあり、人とのインタラクション(相互作用)の場にはないからです。
静止した時間を前提に考えてしまうと、使用時に起こりうるトラブルを予想することが難しくなります。
モノを持って使う仕草が美しいかどうか。使う人に迷いや無駄な動きが発生しないか。
ユーザーフレンドリーな製品やサービスを生み出すときには、
モノと付き合う出会いから別れまでの時間軸を通して、ユーザーの行為の流れを観ていく必要を決して忘れてはならないのです。
6つのバグ
ユーザーにとってのトラブル(不都合)はすべてバクです。
バグは大別すると次の6つに分類されます。
- 非効率のバグ
- 迷いのバグ
- 矛盾のバグ
- 負環のバグ
- 心理のバグ
- 誤認のバグ
非効率のバグ
行為の中断や損傷、やり直し、後戻り、無駄があり、次第に行為が非効率になるバグ
迷いのバグ
ユーザーに迷いが生じて適切な判断・選択ができなくなるバグ
矛盾のバグ
矛盾をはらんだ結果を生むバグ
負環のバグ
当たり前だと思っているモノやサービス・仕組みについて、実は不便を含んでいるのに気づかず、負のスパイラルから抜け出せないバグ
心理のバグ
不満、苦痛、迷惑、恐れ、不安、怒り、セクハラ、パワハラなどの精神的圧迫のバグ
誤認のバグ
勘違いや思い込みなど、誤った認識がトラブルの誘因となるバグ
バグはあらゆるところに潜んでいる。
バグを起こす6つの原因因子とは
- プロセス因子
- 属性因子
- 慣性因子
- 記憶因子
- 環境因子
- 不適正因子
- その他の因子
プロセス
手順と所作の組み立てが上手くいかないとスムーズな行為が妨げられます。
属性因子
たとえば、子供だから、日本人だから、初心者だからなどの属性による考え方の傾向によって影響を受けます。
慣性因子
記憶因子
しかしながら、記憶が原因と分かれば効率的な記憶の特性を応用することでソリューションが生まれやすいと言えます。
環境因子
不適正因子
6つのバグと6つの原因因子を組み合わせることで、何にどう対処すべきなのかが明瞭に理解できるはずです。
問題解決のために
人の行為は、それぞれ目的があり、それぞれのゴールに向かっています。
行為における問題を解決するためには、
個々の人の行為を観察し、何と関係しながらどういった問題に直面するのか、そしてどのような手段を用いながら解決を図り、ゴールに向かうのかを考える必要があります。
行為に注目してください。
どのような行為も問題(バグ)とメリットを抱え込みながら、なされています。
一見すると、それぞれの行為は予測不可能に見えます。
けれども、
大多数の人が同じように陥る事象を発見すること(デザインすること)で、イノベーションは生まれるのでしょう。
行為をデザインするということは、「最適なゴールへの、無意識に近い美しい行為を探り見つけ出すこと」と言い換えてもいいでしょう。
美しい方へ近づくことは、どうやら正しい方向に進んでいるようだと言えそうです。